愚慫空論

『きらめく拍手の音』





「コーダ」という言葉を初めて知りました。
CODA=Children of Deaf Adults.
耳が聞こえない両親から生まれた耳が聞こえる子ども。

この映画は、コーダが撮影したろう者の両親のドキュメンタリー。
と同時に、撮影者自身の「自分」を問うた作品。

好感を持ちました。
ぼくは、こうした問いかけが大好物です (^o^)



ただ、ぼくには見続けることが辛い映画ではあった。
感覚的に、辛かった。
辛抱が必要な映画でした。




音のない世界に暮らす人たち。
正確には、音を感じないで暮らす人たち。
感じないだけだから、実際には、その人の周囲には音が存在する。
それも、デタラメな音が。

ぼくは音に過敏なのかもしれない。
今までそんなことを意識したことはなかったけれど。

実際は、デタラメな音の世界。
これを「音のない世界」とするには感覚をシャットダウンしなければならないし、ヒトはそれを上手くできる生き物でもある。

この、感覚を制限する調整機能がぼくは甘いのかもしれない。
「デタラメな音の世界」を「音のない世界」と見なす監督の意図はよくわかるけれども、でも、ぼくの感覚は、その理解に同意しなった。
だから、意識的な辛抱が必要だった。

そして、辛抱するだけの価値がある映画でした。


この映画で印象的なのは、何といっても主人公ふたりの笑顔です。
とても明るい。
でも、底抜けではない。
底には、しっかりと「底」がある。

その「底」は何かというと、「ふたり」だということ。
別の言い方をすると、恋愛。
恋愛がそのまま素直に発展することで形作られた家族。



人生を勝ち負けで語るのはどうかと思うけれど、あくまで比喩として。

ふたりの笑顔は、人生における勝者の笑顔だと思います。

勝者には2種類あって、それは「人生における勝者」と「社会における勝者」。

前者は「幸福な者」。
後者は、表現し直しても、やはり「勝者」でしょうか。

勝者は必ずしも幸福な者ではない。
その逆も然り。

 参考記事 『「幸福学」が解き明かす幸せをつかむ近道~「非地位財」の追究』


「人生における勝者」と「社会における勝者」は別物なんだけれど、その「別」はサピエンスにとってはデフォルトではない。
この「別」を識るには経験が必要で、この映画は、監督自身の「別」を識るに至った経験を表現したものだと言っていいのだと思います。


監督のボラと弟のグァンヒは、幼い頃から、周囲からは敗者として扱われてきた。

予告編にも出てきます。

   「お前の両親は障害者なのだから、お前は問題を起こすな」

お前の両親は障害者であり「敗者」なのだから、おまえもまた敗者である、と。

こういった取り扱いを「差別」といいます。

差別が人間社会からなくならないのは、「人生における」と「社会のおける」の「別」が、社会においてデフォルトではないからだし、これからもこの「別」がデフォルトになることはないでしょう。
それがどうしようもなく社会的な存在であるサピエンスの宿命。

だから、〔ヒト〕は〈学習〉しなければならない。
〔ヒト〕が〈学習〉することがデフォルトになるように〔システム〕を構築しないといけない。
ところが残念なことに、社会のデフォルトは、「勝者」になる【教育】の方。
つまり〈学習〉は、社会では例外だということです。


この映画で描かれているのは、もちろん例外のほうです。

ろう者の両親。
どう見たって幸福な者なのに。
いとも簡単に見失う。

幸福と勝利の「別」に気がつき始めたボラが、自身の幸福を見つけるために両親の幸福を見つめ直した。

目が見えるとか、耳が聞こえるとか、そんなことは幸福そのものには関係がない。
必要条件ではない。

幸福の条件には「一般的なもの」など何もなくて、
目が見える、耳が聞こえるなどといったような身体的条件も関係がなくて、
ただ、個別に、「その人」を生きればよい。


この映画が描くのは、その「個別」です。
一般的なことが言えるとすれば、そうした「個別」は、観るものを励ます力になるということ、でしょうか。


同じ韓国映画で、また別の形の「個別」を描いて見せたのが



『OASIS』は以前、記事に取り上げました
もう一度、観てみようかな。

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