愚慫空論

『人生フルーツ』

観てきました



豊かな暮らし
Life is Fruits

いえ 言葉が足りません
いえいえ 言葉では足りません


山村暮鳥の詩を真似て

 ゆたかなくらし
 ゆたかなくらし
 ゆたかなくらし
 ・・・

と幾度も繰り返してみましょうか


それでもまだ足りません
この良質のドキュメンタリーに描かれているのは 「ゆたかなくらし」 だけではないから


「ゆたかなくらし」を営んでいる人間の姿だけではなく
「ゆたかなくらし」を築こうとし始めた人間性も ここにはあります

 救済への希求なき宗教性――

その人間性をこのように言い換えることができると思います


もとよりこの映画には 抹香臭い宗教性なんか欠片もありません
ネタバレになるので書きませんが 宗教的慣習という程度のものは出てきますけど
その程度

そんな映画に宗教性なんて 無理筋かと思わなくはないけれど
この映画が提出している姿が
真正の宗教が求めている具体像だと言っても外れではないと思うんです

すなわち すでに救済されている姿
自力を尽くして他力に頼る姿


 「家は暮らしの宝石箱でなければならない」
 「すべての答えは、偉大なる自然のなかにある」
 「長く生きるほど、人生はより美しくなる」

そう考えると この映画を彩るこれら名建築家たちの言葉たちも
自力を尽くして他力に頼る 救済の必要なき希求の形であるように思えていきます




舞台は名古屋近郊の高蔵寺ニュータウン
津幡修一さんが自らマスタープランの手がけた場所です

自ら設計した街に 自らも暮らす
当然のことのように思えますが 当然ではない
設計者は設計するまでが担当で その先は知ったことではない...


修一さんは「知ったことではない」とは考えなかったようです
というのも 高蔵寺ニュータウンは マスタープランの通りには作られなかったから
自然と一体化した街になるはずだったのに「経済」が優先されてしまった

だから高蔵寺ニュータウンで暮らし始めた
これは 贖罪だったのかもしれません
破壊してしまった自然への償い

自分のできる範囲の中でこつこつと
自分を信じて
自分の周囲の人間を信じて
自然を信じて
壊してしまった自然を癒やしていく

癒やしが暮らしになっていて
それが豊かに実っている
だから 人生フルーツ



こうした償いの姿勢は
かつて修一さんの仲間だった台湾人との接し方にも表れているように思います
こちらは実らなかったようですが...



修一さんは 和魂洋才の人と言っていいのかもしれません
明治以降の日本が求めた人物像
ただし国家の求めた「和魂」は武士がイメージでしたが
修一さんの姿は百姓です

できる限り 自分の手でやる
百のことを自分でやる


この映画を観て思い出されるのは 『逝きし世の面影』 です



かつての「面影」が 新たな相貌となって蘇ってきたかのよう


ぼくがかつて暮らしていた熊野では
まだ「逝きし世の面影」が 面影ではなく暮らしの形として残っていました
滅びゆくものとして わずかに残っていた

ぼくはわずかに残っていたもののなかで暮らしながら
同時にそれを壊していくということをしていました

樵であり かつ林業労働者であるということは そういうことです

かつての「面影」の方がずっと豊かだったことを識りつつも
生き残るには そちらを壊していかないとやっていけない

この映画に描かれている津幡夫婦の暮らしは その真逆です


しかしこれは 残念ながら誰もができることではない

修一さんは東大卒のエリートです
英子さんは 歴史ある造り酒屋の令嬢です

ふたりの人生なんだから 当たり前のことですが 
ふたりの出自は重要な要素になっています
映画でも そのことは 表出されています
やはり「特別なもの」です
「ふつう」なんだけど 一般からはかけ離れたもの

だから 観る者に「懐かしさ」と同時に「憧れ」ももたらす


「面影」になってしまったかつての豊かさは
ふつうに「ふつう」のものでした
誰もがふつうにそのように暮らしていた

そうした「ふつう」が特別なものとしてではなく
映画に取り上げられたりしない ふつうのものとして実現することを願う

建築家としての修一さんは そういう願いを抱いていたのではないかと想像します



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