愚慫空論

『鋼と羊の森』

最近のぼくは 小説熱が高くなっています。



『鋼と羊の森』

前から気になっていました
小説熱が高まる前から

タイトルがいい
「鋼」「羊」「森」
どれもそそられる言葉
ピアノ調律師の話だなんて 知りませんでしたけど

このタイトルにそそられた頃は小説熱は高くなかったので
自前で購入してみようと思いませんでした

で 最寄りの図書館へ貸し出し予約
相当の予約件数が入っていたみたいで 忘れた頃に連絡が来ました


読んでみて よかったです

「ふつう」の物語
ありきたりという意味の「ふつう」ではなくて 
いのちあるものそれぞれがみな ふつうに違うような意味での「ふつう」

いえ いのちあるものだけではない
ピアノにはいのちはありませんが でも 個性はある
モノにも個性があって それを活かすことが自らが〈生きる〉こと
そして それは「ふつう」のこと

そういうお話しです

ピアノ調律師の話ですが 音楽の具体的な話は出てきません
ピアノコンサートの場面もありますが 曲名すら登場してこない
具体的な曲名があがるのは バイエルくらいだったかな?

でも ピアノを聴いてみたくなります
ぼくはもともとから聴くので その傾向に拍車がかかるくらいかもしれませんが
そうした傾向を持ち合わせていない人だって
この小説を読めばピアノが聴きたくなる――と思います (^o^)

ピアノの「音」を聴きたくなる
楽曲よりも まず 音


料理に喩えるならば とびきり上等なシチューでしょうか

小説の登場人物の中にはスターもいます
ピアノの巨匠に愛されている天才調律師とか
ピアノの才能あふれる双子の女子高生とか
単独で食べても美味な素材

でも これらは脇役です
そうした「特別」な素材は あくまで「ふつう」を際立たせるために使われている
主役はシチューのルウです
いろいろな素材からうまみを吸収して 受け止める存在
「ふつう」の存在だけど 存在感はしっかりとある
だから スープではない


「ふつう」といえば 最近 当ブログでも幾度も取り上げました

 『この世界の片隅に』

主役のすずさんは「ふつう」のキャラクターですが 
その「ふつう」は特別なものでした
すずさんの「ふつう」は ある種特別な才能です

『鋼と羊の森』の主人公は 外村
天才調律師との出会いから調律師への道を歩み始めた「ふつう」の若者です

外村は山村の出身
出身地の風景の描写はあまりありませんが 過疎地ではあるのでしょう
高校は村外にでなければならない
田舎で「ふつう」に育てられ 
「ふつう」に大きくなり
高校からは村外で暮らすことを「ふつう」のこととし生きてきた

そんな外村が作り上げる関係性も ごく「ふつう」のものです
けれど 良質の「ふつう」の美味なこと


『鋼と羊の森』はシチューのようだといいましたが
もうすこし言うと 美味なシチューを作り上げる過程を味わうことができる小説です

最初はこなれていない
だけど 経験を積むことで ゆっくりと煮込まれることで 味が熟成していく


『鋼と羊の森』は この熟成の表現が素晴らしい

ピアノの個性
ピアノに 自分の音を求める弾き手
ピアノの個性から 弾き手が求める音を引き出す調律師

ピアノの個性が表れていくさま
弾き手の個性が表れていくさま
それらが丁寧でしっとりきらめくような言葉で表現されている
それらの表現が 調律師の成長の表現になっている


 「音楽は 楽しんだ者が勝ちだ」

そうしたありきたりの発見が
外村の成長の過程を通じて提示されると
しっかりと内実の詰まったものに感じられます


残念なのは――

といっても 小説への批判ではありません――

ピアノ調律師という「特別」な世界が舞台であることです
ここで描かれているような「ふつう」は 
現代では そうした「特別な」舞台でないとリアリティがない

かつては「ふつう」にあって
現代では過疎の山村のようなところにしか残っていないような「ふつう」
それが 現代の「特別」な舞台へと上がって
「ふつう」が「ふつう」に開花した
開花したことは たとえフィクションであっても素晴らしいことですが
そのことが逆に 「ふつう」が開花できない現代の「ふつう」へと思い至らせる


『逝きし世の面影』のページをめくってみたくなりました



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