愚慫空論

『ヤノマミ』 その1



今朝、見るともなしにTVを見ていました。
朝の報道番組か流れていた中国人観光客の振る舞いについての情報。

北海道の無人駅、札幌と小樽の間にある朝里駅が舞台でした。
海の見える無人駅。
今の季節は雪景色ですから、雪と海が一緒に見える。

TVに出ていた中国人観光客がいいます。
「中国には、雪と海が一緒に見える場所はないんです」

東北地方(旧満州)あたりに行けばあると思うけど?

まあ、いいか。

朝里駅に中国人観光客が良く来るようになった理由は、
そこが「聖地」になったから。
巡礼の地になってしまったんですね。苦笑。


「聖地巡礼」の言葉をグーグルさんに投げかけてみると、
上位に『NEVERまとめ』が出ていて、

 『「聖地巡礼」の人気まとめ一覧 - NAVER まとめ』

ページを覗いてみると、



2017年2月7日AM10時では朝里駅に話題がトップに出ていて、笑、
「まとめ」が作成されていました。

これ、「まとめ」というよりTV番組の「写し」なんだけど、
「写し」とはいえ、こういうページは瞬く間にできあがってしまうんですね。
ちょっとビックリ。

プロの仕事(笑)なんでしょうね。


話がどんどんズレていってしまっていますけど、
ぼくが何を思ったのかというと、
この番組で報道されていた中国人観光客たち振る舞いが、
――日本のルールがわからずにか、無視してかは知りませんが――
電車を何度も緊急停止させるような迷惑な振る舞いになっていて、
それが、僕たち(←日本人)の敵意を招いている。

その情景が、『ヤノマミ』の


第一章で描かれている情景とよく似ているな、と思ったんです。

彼らは僕たちをナプと呼んだ

・・・・・・

〈ナプ〉とは「ヤノマミ以外の人間」、あるいは「人間以下の者」を指すヤノマミの言葉で、敵意と差別が込められた最大級の蔑称だった。世の中には様々な蔑称・差別用語があるが、アマゾンの奥地で聞いたナプという蔑称ほど、冷たく、恐ろしく、肝が縮み、心がザワザワと騒ぎ、耳にこびり付いて離れないものはなかった。

どんな言語でも侮蔑の言葉は語感が禍々しい。だからなのか、ヤノマミの言葉をほとんど知らなかった僕らでも、ナプという言葉だけは聞き取ることができた。やはり、差別される方は直感的に分かるものなのだ。



朝里駅での情景は禍々しいものとは言えません。
迷惑な振る舞いを眺める僕たちの気持ちも、禍々しいものにまで至っていない。
個人差はあるかもしれませんが。

禍々しさにまで至っていなくても、【不機嫌】はすでにそこにある。
彼らなりの行動様式にしたがって純真に振る舞う中国人たちを
僕たちは(TVを通じて)眺めているわけですが、
そこにはすでに【不機嫌】があることを認めないわけにはいきません。

「直接体験」ではないにもかかわらず。

〈ヤノマミ〉とは、彼らの言葉で「人間」という意味だ。彼らはブラジルとベネズエラに跨がる深い森に生きる南米の先住民で、人個は推定二万五千人から三万人。「文明化」が著しい先住民にあって、原初から続く伝統や風習を保つ極めて稀な部族だった。

西暦1492年にコロンブスがやって来る以前、南米大陸には一千万から五千万人(諸説あり)の先住民が暮らしていたと推定されているが、その後の500年で彼らの人口は1パーセントいかにまで激減した。多くの部族が虐殺は〈文明〉側によって持ち込まれた病原菌によって絶滅したのだ。現在、ブラジルに生きる先住民は二百二十部族・三十万人に過ぎない。

ヤノマミは〈文明〉による災厄から免れることができた奇跡的な部族だった。アマゾンの奥の、また奥にある未踏のジャングルで暮らしていたため、虐殺や病原菌による絶滅から逃れることができたのだ。一定の人口を維持し、独自の伝統と風習を保ち続けはなかった。



ヤノマミの人たちが、
 本当に「原初から続く伝統や風習を保つ」人たちかどうかはわかりません。
そうだとしても、
 「原初からの精神性を保つ」かどうかは、もっとわからない。
わからないけれど、そうだと仮定すると、
ヤノマミの人たちには、禍々しさにつながるような【不機嫌】がすでにある。

それは、あくまで本の記述を通して、
すなわち著者の視点を通してではありますが、『ピダハン』にはなかったものです。



この【不機嫌】を、ぼくは、「認知革命」以後のものではないかと推測しています。


上に引用した、『ヤノマミ』著者の、「ナプ」という言葉への印象。

 「ナプという蔑称ほど、冷たく恐ろしいものはなかった」

偽らざるものなのか、
ドキュメンタリーをドラマチックに仕立てるためのレトリックなのか。
おそらく両方なのでしょう。

【不機嫌】を隠蔽するのが〈文明〉とやらの効用だとするなら、
 隠蔽の洗練度が文明度だとするなら、
中国人観光客の振るまいを眺める僕たち日本人の文明度は、
 明らかにヤノマミよりは上でしょう。

が、いくら洗練されても【不機嫌】そのものがなくなるわけではない。
【不機嫌】そのものがないならば、洗練の必要もない。


以前にも引用した『ピダハン』の記述です。

(前略)
こういう時間帯、わたしたちはみんなにふるまうコーヒーを用意し、村人たちは我が家に入ってきて腰を据えたり、ただ顔を出したりする。そんなときわたしは、神への信仰や、わたしがピダハンも同じように神を求めたほうがいいと信じる理由などを語った。ピダハン語には「神」に相当する単語がないので、わたしはスティーヴ・シェルドンに勧められるまま、「Baixi Hiooxio マイーイ ヒウオーイオ(上の高い父)」という表現を使っていた。

わたしたちの上の高い父が、わたしの人生をよくしてくれた、とわたしは言った。.以前はわたしもピダハンのようにたくさん酒を飲んだ。女に溺れ(というのは誇張だが)、幸せでなかった。すると上の高い父がわたしの心のなかにやってきて、わたしは幸せになり、人生もよくなった。急ごしらえで考えだしたこの目新しい表現や喩えがピダハンに正確に通じるのかどうか、まったく考えていなかった。自分では意味をなすと思っていた。そしてその夜、わたしはきわめて個人的な話をしようと決心していた――これを話せば、神とともにある人生.がいかに重要かをきっと理解してもらえるだろうと思っていた。

わたしはピダハンに、継母が自殺したこと、それがイエスの信仰へと自分を導き、飲酒やクスリをやめてイエスを受け入れたとき、人生が格段にいい方向へ向かったことを、いたって真面日に語って聞かせた。

わたしが話し終えると、ピダハンたちは一斉に爆笑した。ごく控えめに言えば、思いもよらない反応だった。この話をすれば、わたしが味わってきた苦難の連続に感極まり、そこから救いだしてくれた神に心打たれた聴衆から「ああ、神様はありがたい!」と、嘆息されることに慣れっこになっていたのだ。

「どうして笑うんだ?」わたしは尋ねた。

「自分を殺したのか? ハハハ。愚かだな。ピダハンは自分で自分を殺したりしない」みんなは答えた、彼らはまったく心を動かされていなかった。はっきりしていたのは、わたしの愛する誰かが自殺を図ったからといって、ピダハンがわたしたちの神を信じる理由にならないということで、実際のところこの話はまったくの逆効果、彼らとわたしたちとの違いを浮き彫りにしただけだった。



ピダハンたちのこの反応の理由を、ぼくは、
 現象界と象徴界が未分離だから
と推定しました。

今度は別の言い方をしてみます。

 【不機嫌】を実存させていない人たちに、
 【不機嫌】の取り扱い方を教授しようとしたときの反応。


ヤノマミの人たちには、すでに【不機嫌】は実存するようです。
禍々しいものに直結するほど、剥き出しの【不機嫌】が。
ならば、その取り扱いの仕方、洗練の方法の教授は可能でしょう。


『その2』へと続きます。


本を読んでいるだけでは物足りなくなって、
オンデマンドにあるNHKの番組を視聴しています。
映像は、やはり生々しい。  
Dailymotionでも、観られるみたい。)

劇場版DVD
もあるみたいですね。

コメント

同じアマゾン奥地でも、ヤノマミはピダハンと違うと感じるでしょ? ワタシは「なんとなくピダハンよりワタシたちに近い」、でしたが【不機嫌】の有無、度合いという切り分け方をするとは凄いですね、笑。納得です。

映像のドキュメントのほうはDVDを入手しようかどうか悩んでいましたが、PCで観ることもできるんですね。で、あっても、本からのイメージも相当でしたので、なんとなく躊躇してしまいます。
ある種の恐れを感じます。

・毒多さん

DVDになっているのは、TVで放映されたものとは違うようですよ。
想像ですが、DVDの方は、TVでは放映できないような絵があるんでしょうね。

放映された番組の方は、おとなしいものでした。
禍々しさは感じられない。
【不機嫌】も。
ある意味哲学的な内容。

これはこれで、作品としては完結しているように感じます。

>【不機嫌】の有無、度合い

【不機嫌】という言葉が適切だったかどうか、あまり自信はなかったのですが、
毒多さんには伝わったようで、ひと安心。(^o^)

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