愚慫空論

新しい皮袋には新しい酒を(皮袋編)

お玉さんのおかげですっかり自沈モードが解消されたワタクシ愚樵でありますが、解消された勢いに乗じて新しいエントリーをひとつ。

村野瀬玲奈さんが最近、選挙の電子投票制度についての記事をいくつかエントリーされておられて、私のところにもめでたくTBが1つ舞い込んでまいりました。それらのエントリーにはいろいろな人が考えた電子投票制度の構想が紹介されていますが、それに触発されて私も何か考えてみようと思った次第。私は今、自沈モードから一変浮かれモードですが、そうした精神状態は新しい構想を考えるのに向いているでしょう。


選挙投票制度に求められる要件は、投票データ検証の可能性か、もしくは不正改竄の可能性の排除。この要件のいずれかが満たされた投票制度・システムでなければなりません。紙という媒体を使用する現在の投票システムは、検証の可能性、データ不正改竄防止のいずれにも有効な方法です。しかし欠点は経費的にも時間的にもコストがかかるところであり、それゆえ電子投票でそれらのコストを減らそうという発想も出てくる。投票のコストを減らすことが出来れば、投票の機会を増やしたり複雑な投票が可能になったりと、選挙そのものの様々な可能性を探ることが可能になります。

選挙そのものの様々な可能性とはいうなれば“新しい酒”ですが、せっかく“新しい皮”袋(電子投票制度)を採用しようというのなら、“新しい酒”が詰められなくては意味がありません。しかし、その皮袋は酒が漏れるようなものであっては絶対いけません。つまり投票データ検証の可能性、もしくは不正改竄の可能性の排除が保証されるものでなければなりません。

紙を使う現在の方式では、投票用紙というデータを示す物証が残るという点で検証可能性が保証されています。不正改竄の可能性(例えば一部の者に都合の悪い投票用紙を廃棄するとかカウントしないとか、逆に都合のよい投票用紙を不正に投票するとか)は完全に排除されてはいませんが、幾重にも防御策が施され、それが選挙制度への信頼の基盤になっています。それが現在提案されている電子投票システムでは、まず物証が残らず検証の可能性が排除されてしまうこと、次にデータ改竄が容易なことを理由に、村野瀬さんをはじめ様々な人たちが少なくとも現時点での電子投票制度への反対を表明しています。穴の開いた皮袋だ、というわけです。

皮袋という比喩でもわかるとおり、現在の投票制度および現時点で提案されている投票制度はクローズドシステムです。特にデータ検証の保証において、そうです。これは紙という媒体を使用する場合にはその物理特性と秘密投票の規則ゆえにやむをえないことですし、また、クローズであるということがデータ検証の可能性を排除するものにはなっていませんから、クローズかオープンかは特に問題とされる論点にも挙げられていません。ですが、電子投票となると話は変わってきます。

電子投票では物証は残りません。ですからクローズではデータ検証の可能性は保証できません。しかし、オープンではどうでしょう? 自分が投票した結果を自分で検証できるとしたら? データ検証可能なシステムを構築できるのではないでしょうか。そしてネットはオープンなシステムです。

簡単に思考実験をしてみます。


有権者は投票の秘密保持のため隔離された場所で投票装置に向かって投票を行う。

この際に投票装置に向かって入力すべき事項は1つだけ。自分が選ぶ候補者の選択。入力方法は、タッチパネルでも何でも可。

入力が確認されると、投票者には固有の番号が与えられる。紙にプリントアウトするのがよいだろう。


投票行動は以上で終了。ですがこれで電子投票選挙は終わりになりません。有権者には自らの投票結果を確認する義務が課せられます。

有権者はネットで投票結果データベースにアクセスする。データベースにアクセスするとすべての投票結果、つまり候補者と固有番号が関連付けられ情報が表示され、有権者はすべての情報の中から自分の固有番号を見出し、その番号と関連付けられている候補者が自分の選択であるかどうかを確認する。

間違いなければ、それでOK。もし間違いがあれば、選挙管理委員会に申請し間違いを訂正する。

有権者の自己検証は一定の期間を設けて行われます。その期間中に訂正申請がなかった投票結果情報は正しいと見なされ、当選者が確定します。

注意:この方式では投票者数が厳密に測定されなければならない。電子投票は原理的に無効票はありえないので、投票者数=有効票になる。投票者数のカウントはもちろん投票装置においても行うが同時に人の目によっても確認され、選挙結果の正しさを検証する。


以上の方法で原理的には紙媒体を使わずに投票結果を検証することができると思います。ですが、この方法には重大な瑕疵があります。それは秘密投票を保持できないという瑕疵です。

投票の秘密が暴露されるのは選挙結果検証の場面においてです。選挙結果情報はすべての有権者に共有されます。選挙結果情報が共有されてもそこに記されているのは固有番号でしかありませんから、その固有番号を秘密にできれば投票の秘密は保持できます。ですが現実においてはそれは難しいでしょう。

たとえばある団体に所属するなどして、特定の候補者に投票するよう圧力がかかっている人がいるとしましょう。その人は投票したことを団体に知られることを避けられません。結果、固有番号を与えらていることも知られます。するとその人には固有番号を明かすように圧力がかかるでしょう。そうなると投票の秘密は保持できません。


では、選挙結果オープン検証制による電子投票を採用することはできないのでしょうか? そう結論付けるのはもったいないのでもう少し思考実験を続けてみます。

有権者は投票の秘密保持のため隔離された場所で投票装置に向かって投票を行う。

この際に投票装置に向かって入力すべき事項は1つもしくは2つ。投票の秘密を保持する必要がない人は1つ。ある人は2つ。
2つ入力する人は、虚偽の投票(表)と真の投票(裏)の2つの情報を入力する。
(注:表裏同じの投票は認められない)

入力が確認されると、投票者には固有の番号が与えられる。2つ投票した人にはそれぞれに固有番号が与えられる。

投票者は投票行動を行ったことは知られますが、1つしたのか2つしたのかは知られることがありません。これを知っているのは本人だけという状況が生まれます。ですから、投票の秘密を暴露するよう圧力がかかったとしても、表(虚偽)の投票を知らせることで真(裏)の投票結果を知られることを避けることができます。

次に投票結果の自主検証の方法です。これは簡単な例を挙げて説明します。

甲と乙の2人の候補者で争われた選挙。投票者数は10人(固有番号1~10)。そして2つ投票した人は1人(2つ目の投票への固有番号A)。以上のように仮定。そうすると共有される選挙結果は下のようになる。

甲(1,2,3,4,5,6 / A) 得票数 表6、裏7 当選
乙(7,8,9,10)        得票数 表4、裏3

括弧の中で示されているのが獲得した固有番号。投票した有権者はこの番号を見て自らの投票結果を検証するが、注目はA。Aの投票をした人は7,8、9,10の投票をした人の中にいる。そのことは明らかだが、その4人のうちの誰がAの投票をしたのかは、その本人にしかわからない。よって、投票の秘密は確保されることになる。

以上の思考実験は簡略化のための2人の候補者ということで行いましたが、3人以上でも原理は同じですし、自主検証については3人以上でも2人のときと同様に行えるはずです。ただし3人以上では、表→裏で誰から誰へ投票をカムフラージュしたのか、その情報が錯綜し有権者の自主検証だけでは完全な検証ができません。錯綜した情報の検証をクローズで行う必要が出てきます(これをオープンにすると秘密保持ができなくなります)。

さてさて、これ以上は話が非常にややこしくなるので私の粗雑な頭では追いついていきません。本当にこの方法でできるものかどうか、どこかに大きな穴を見落としていないものかどうか、どなたか引き続いて考えてみていただけないものでしょうか?

追記:この制度で考えられる副次効果として、どの候補者および候補者支援団体が個人の自由な選挙行動に圧力をかけているのか、ある程度であるが明らかになることが挙げられます。偽の投票が多い候補者は、断定はできないにせよ、それだけ圧力をかけている可能性が高いと推定されます。それは候補者にとっては不名誉なこととされるはずですから、それが可能性とはいえ明らかにされることは自由で公平な選挙への強力な後押しとなるはずです。

コメント

秘密投票の保護より、少数者(反対者)の保護

愚樵さん。投票の秘密が最優先になっていませんか。?
議会制民主主義の既成概念にとらわれ過ぎではありませんか。?
まず、現在の代議制度による間接民主主義は、色々な点で直接民主主義より劣っています。そして直接民主主義では秘密投票では無く公開による討論、議決(投票)が原則です。
直接民主主義での秘密投票はかえって腐敗の温床となる。自分自身の主張(投票)の結果に、自分自身が責任をとるのが民主主義の基本原則です。
現在でも議会では重要案件で挙手、あるいは記名投票で表決を行い、誰が何に賛成したか市民が判るようになっている。
無記名の秘密投票が横行すれば、民主主義は少しずつ腐敗し、徐々に崩壊していきます。(秘密投票は民主主義を腐敗さす)
『秘密投票』の意味は、『少数者の保護』『反対意見の保護』がその目的なんですよ。
絶対多数への投票では、秘密も何もありません。保護する必要性が全く無い。
極少数の反対者が多数派からの迫害を受ける恐れが有るために、それを保護するのが秘密投票制度なんですよ。
投票によって自己に不利益が及ばないようにする為の方策が秘密投票制度。
投票で不利益にならなければ「非公開」よりも「公開」の方が余程優れている。
公開ならば、自ずと自分自身の主張、発言や行動(投票)に各自が道義的な責任を感じるようになる
民主主義の発展の為には、秘密投票の保護ではなく.少数者(反対者)の保護を優先すべきです。これには内部告発者を保護する様な、強力な法整備が必要でしょう。

今のアメリカ大統領選挙で選挙人はすべて投票結果を公表して選ばれ、選挙人を選ぶ一般市民投票での投票は事前の選挙登録者だけに許されている。
そして、その選挙前の事前登録では所属政党(支持政党)が記入され、誰でも閲覧可能。だから今やっている政党予備選挙が必要で、公開での実施か可能になる。
本番で秘密投票が有っても、ほとんど何の意味も持っていません。
アメリカで社会民主主義政党が出来ない、育たない理由がここに有るわけです。

直接民主制、秘密投票の廃止

布引さん、こんにちは。

直接民主制と秘密投票の廃止は布引さんの持論でしたよね。うん、そうですね、電子投票制度(ネット投票制度)を新しい皮袋とするならば直接民主制と秘密投票の廃止こそが新しい酒なのかもしれません。

選挙民が自らの投票結果に責任を持ち、秘密投票を廃止するなら情報を広く共有できるネットが相応しい。

しかし、その“新しい酒”を飲むには憲法改正も必要なことですし、それにこのエントリーは現行憲法の範囲内で公正な電子投票制度が実現できないものかを考える「思考実験」ですので。お目こぼしを。

電子投票に反対ではないが

電子投票には、早くて便利、紙を大量に使わない、人件費も削減できるというメリットがありますからね。
何が何でも反対というわけではないですし、懸念されるところが改善できれば、導入をしてもいいんじゃないかって思います。

ただ、記事を読む限り、電子投票は面倒くさいですね。だったら、今までのがいいかも。(笑)

電子投票断固反対

直接民主制はともかく、「秘密投票の廃止」は憲法15条に抵触するので、実施にはハードルが高すぎる。
話はそれるが、インターネットでの討論のレベルの低さは、ネットの「秘密性」に由来している。「秘密」というものは、やはり危険な代物で「取り扱い注意」ですね。

現状での電子投票の可能性ですが,有権者が電子投票機で投票すると、結果を紙の投票用紙に二枚複写して一枚を投票者に渡す。(レジのレシートの様な物)
残ったもう一枚を厳重に保管して、後日再度集計する。これなら不正防止ができ賛成できる。

電子投票の利点は,投票終了と同時にカウントできること。欠点はアホほど金と手間がかかる。ここでけちって手間と金を惜しんだら幾等でも不正が蔓延るようになってしまう。
現状の、自分で候補者名を書き込む日本式の方法が不正防止の観点から、もっとも信頼が置け安上がりな方法です。
便利だからといって、最善とは限らない。
便利なものが、実はトンデモナイ代物だった何て話は幾等でもあります。
不正は何処の世界でも有る。悪い奴は幾等でもいます。完全なセキュリティには案外とお金がかかる。人手もかかる。

シンプルで間違いや不正がなく再検証可能な方法

愚樵農林水産大臣、今年もよろしくお願いいたします。

私の記事を引き合いに出していただきましてありがとうございます。読ませていただいたのですが、控えの用紙あるいは投票受付番号を使ってさらにもう一度確認作業を求められるのはたいへんそうです。機会の操作に慣れた人ばかりではありませんから。

私はこちらの記事で説明したフランス方式がけっこういいと思うのですが、この方法に何か欠点があればむしろそれを教えてください。
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-519.html

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