愚慫空論

ばらばら その2

環世界という概念のことを知ったのは、去年の今頃だったろうか。
『暇と退屈の倫理学』で紹介されていた。

環世界(かんせかい、Umwelt)はヤーコプ・フォン・ユクスキュルが提唱した生物学の概念。環境世界とも訳される。

すべての動物はそれぞれに種特有の知覚世界をもって生きており、その主体として行動しているという考え。ユクスキュルによれば、普遍的な時間や空間も、動物主体にとってはそれぞれ独自の時間・空間として知覚されている。動物の行動は各動物で異なる知覚と作用の結果であり、それぞれに動物に特有の意味をもってなされる。


Wikiedia より)

有名なのはダニの事例。

ダニの行動を簡単に記述することができる。

「木の枝などにじっとぶら下がっていて、ヒトやイヌなどの哺乳動物が通りがかるのと取り付いて、吸血をする」

当たり前だけれど、この記述は人間にだけ通用するもの。記述できるのは人間だけなので。しかし人間は、たとえ記述はできなくても、「枝」とか「ヒト」とかいうものをダニも認知しているに違いないと、なんとなく思い込んでいるが、環世界という概念は、それはダニにとっては違うと指摘する。

ダニの感覚装置は、哺乳動物が発散する酪酸という化学物質に反応する感覚(嗅覚)と、動物の体温に反応する温度感覚と、触覚しかない。「枝」とか「ヒト」とか「ぶら下がる」といったヒトが視覚を頼りに作り上げたパーツはダニの世界には存在しない。「酪酸を感知して手を離し」「触覚が何かを感知したら手でつかみ」「温度を感知したら吸血する」といった行動を(人間の基準からすると)機械的に行うだけ。

ダニとヒトとでは棲んでいる(環)世界が違う。つまり、ばらばら。

ここまでは科学的に証明できる話だろうと思う。

では、そこから先。同じ感覚をもつヒト同士では、(環)世界は同じなのだろうか?

違うと私は思う。科学的に検証はされていないだろうけれども。すなわち、ヒト同士でも、ダニほどには違わないにせよ(環)世界は、ばらばら。

根拠(らしきもの)をあげるとすれば、その1、体癖。
体癖

ざっくりいうと、身体が違えば感覚も違う、でいいかな?

その2。アスペルガーやADHDといった症例が報告されていること。これらは「発達障害」と偏った呼称をされるけれども、これらは誰にでもある脳の情報処理の癖、言うならば“脳癖”の極端なものだ言える(というのは、私の勝手な解釈だが)。

同じ種だからといってセンサーの精度が同じでないことは感覚的にわかるが、精度に差はあっても、情報処理は同じなので、精度の差という落差は超えることができる。そうなんとなく考えていた。が、どうやら違う。情報処理にも個体ごとに癖がある。感覚とは、センサーからの情報処理によって生じる生体現象なのだから、情報処理が違えば感覚も異なるはずで、感覚が異なれば(環)世界も異なる。


ここでラカンの現実界という概念を引っ張り出してみる。現実界とは、

 空虚で無根拠な、決して人間が触れたり所有したりすることのできない世界の客体的現実

なんだそうだ。こちらも言わんとするところは、ばらばら。

だけれども、現実界のばらばらと環世界のばらばらは、同じではない。現実界は空虚だというが、環世界は充溢している。


私は、私の棲んでいる世界が充溢した世界であって欲しいと願うし、そう信じている。たとえ、ばらばらでも。

コメント

また思い出したことを

こんにちは。

僕はメチャクチャ文系で、なおかつ化学と物理を避けて通ってきた人間なので、数年前に福岡伸一氏の本を読んで初めて知って、ビックリしたことがありました。
それは、物理法則が「必ずそうなる」というものではなくて、「平均的な振るまい」「そんな感じの傾向」くらいのものだということでした。

http://blog.livedoor.jp/appie_happie/archives/51314626.html
http://blog.livedoor.jp/appie_happie/archives/51316927.html

バラバラの中にある、ある「平均的な振るまいの傾向」。
そういうつもりがあって自分の知覚し得る世界を認識するのと、そういうつもりがなくて認識するのでは、それだけでずいぶん違う見え方・感じ方になっちゃうんだろうな、そう思ったことでした。

思索の断片

おはようございます。

特秘法が強行採決されんとしていますが、「社会」の内のことで環世界とは別世界のことかな。

環世界かぁ、、面白いです。ワクワクします。

ダニと人の視点がバラバラで、人は人の視点・解釈でダニを解りたがっている。で、人同士も感覚も違うのではないか。、、、とすると、ダニ同士も違う(かもしれない)と、なりますか?解りませんね。ダニの世界のことですがから、ダニ目線で捉えることは人間には不可能。

人同士であれば、人間同士なので、ダニと人間という関係よりは見えている世界が近いのかもしれないが、やはり違う、、、かもしれない。
対話には常に齟齬が生じ、決裂する。論の問題でなく、もしかしたら、センサーの違い、つまり根本的に見えているもの・ベースが違う。
「人としてどう思う?」
「人間だったらわかるだろ?」
「人の業として」
といった言葉が意味をなさなくなる。
これが現世界のバラバラの正体? そして一つにしたがっている。なぜ?・・・解りたいから。それとも自分の環世界の正当性を唯一無比の正当な世界にしたがっているから?
でも環世界がバラバラな限り、現世界のバラバラも避けられない。環世界のバラバラを認めると現世界も変わる?

なんてことを考えつつコメもレスもできないでいる。

「進撃の巨人」を20話までみつつ、興味を失ったのは「環世界」に認識があったから?
「まどマギ」に深く見入ったのは「環世界」のセンサーに触れたから?

とか、

アベシの環世界とワタシの環世界が別なのは、生まれつき? 後天的なものだとしたらどこで差がでたの? 

とか。

面白いなぁ・・・

アキラさん

私は理系人間で、特に物理は大好きでした。シンプルなのがお気に入り。(^^)

物理に限らずですが、科学というのは一種の言語です。なかでも物理は特に言語がシンプルなのですね。高校レヴェルくらいまでは。
物理世界の複雑な現象。その全貌(現象界)を直接知覚するのは無理なので、シンプルな言語体系(象徴界)に置き換えて把握するわけです。

物理法則が「必ずそうなる」ように見えるのは、そのような言語体系に置き換えて把握していたからに過ぎないのでしょう。
それが「平均的な振るまい」「そんな感じの傾向」に見えるようになるのは、言語体系が変わったから。
物理世界への観測の精度が上がって、「必ずそうなる」言語体系では説明できなくなった。
説明」という行為は想像界でしょうから、観測精度の向上が想像界の破綻をもたらしたということになるのでしょうか。

破綻したら創造する。この営みを科学では進歩といいますが、生命現象も破綻と創造がセットになっている。破綻と創造から自生的に生まれる秩序が生命現象のキモなんだと思います。

毒多さん

論が噛み合ないことが非常に多いというのは事実です。ですけれど、そのことをそのまま、感覚のバラバラに直結してしまうのは危険です。毒多さんもそんなふうに肌感覚で感じていると思いませんし、私も「バラバラなんだから、バラバラ」とは思わないです。

『進撃の巨人』に興味を失った一方で、『まどマギ』に共感を抱いた理由。言葉にするよう、考えてみました。

どちらも理不尽が設定されています。人間が巨人の生き餌になるという理不尽。少女が宇宙生命体のエネルギー源になるという理不尽。二つの違いは、少女(萌える)か人間一般(萌えない)かという差もありますが(^^; それ以上に、理不尽との向き合い方なんです。

理不尽を相手に打ち負かすべく戦おうとすると、理不尽が大きければ大きいほど、自身の理不尽も大きくなっていく。『巨人』はそういう物語のように感じました。(どのような結末になるか興味が尽きたわけではないので、そのうち確認してみようと思っていますが)。

一方、『まどマギ』は、理不尽と正面切って戦うことを逡巡した少女の物語です。この逡巡がいいんです。萌えるんです。(^^)


バラバラへの向き合い方も、巨人型とまどマギ型があるのではないかと思います。

理不尽を理によって大きく育てながら、バラバラを理によって糾合しながら、相手の理不尽を打ち負かそうと対決するやり方。
理不尽を○○によって解きほぐしていこうとするやり方。(「○○」には適切な言葉が浮か浮かびません。)

生命には、もともとバラバラを統合する能力があります。
ヒトは社会的な動物ですから、社会的秩序を自生的に創造する能力が備わっている。ただし、その大きさには限界があります。
言語によって培われる理は、ヒトの動物としての限界を超えた「大きな社会」を築く能力を付与する。

私たちが棲んでいる「大きな社会」に、「バラバラ」を直接当てはめようとすると、バラバラになる。「バラバラ」もまた理なので。
環世界のバラバラは、理ではなくて、(自生的)秩序の苗床でしょう。苗床にいくら理を唱えても芽はでない。命は萌えないんですね。

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