愚慫空論

〈私〉とは複合感覚である (2)

(1)からの続き。今回はことばが歪む理由について考えてみる。(1)では、ネタに梅干しを使ったが、今回はラーメンにしてみる。



上の画像は【ラーメン】である。ラーメンを食べた経験がある者は、上の画像をみると、過去の五感の記憶が引き出され、頭の中に〈ラーメン〉ということばが浮かぶ。ラーメンの味や香り、器の感触、面をすする音、そういった複合された感覚の記憶が〈ラーメン〉ということばとともに甦ってくる。

ところでラーメンは、「中華そば」という名で呼ばれたりすることがある。名前としては、こちらの方が古いのかもしれない。和風のそばに対して、中華風のそばという意味だろう。ウィキペディアによれば、時代とともに南京そば→支那そば→中華そば、と名称が移り変わってきたという。

今、この名称についての事実をもとに、

 ラーメンは蕎麦である

というセンテンスを組み立ててみる。そして、このセンテンスをどのように感じるかを自分自身に問い合わせてみる。すると思い浮かぶことばは、「気持ちが悪い」。なぜか。理由は簡単で、ラーメンと蕎麦とは感覚的に異なるものだからだ。

【ラーメン】を表示する情報(ラーメンの画像、「ラーメン」という文字)から、ラーメンを食べたことのある経験を持つ者は、〈ラーメン〉ということばを思い浮かべる。〈ラーメン〉にはラーメンを食べたときに体験した五感の記憶が統合されている。

同様に、蕎麦を食べたことのある経験を持つ者は、【蕎麦】を表示する情報から〈蕎麦〉ということばを思い浮かべ、その時の五感の記憶を引きだしてくる。その記憶は、当然〈ラーメン〉のそれとは異なる。どのように異なるかを簡潔に述べることは難しい。


上は鴨南蛮そばだが、これは視覚的にはラーメンに近い。ラーメンを食したことのない者が、画像だけを頼りに分類するならば、鴨南蛮をラーメンに分類することはあり得るかも知れない。が、実際に食した経験のある者ならば、鴨南蛮をラーメンに分類することは難しいだろう。味覚がラーメンとはまるで異なる。

つまり。「ラーメンは蕎麦である」というセンテンスは、感覚的に歪んでいるのである。

見方を変えてると、もともと「南京そば」と呼ばれたものが、時代とともに名称が移り変わってゆき「ラーメン」という名称に落ち着いたという現象は、名の歪みが正されていった過程だと言える。「南京そば」といわれたのは、「中国の南京からやってきた蕎麦」という触れ込みを込められたからだろうと推測する。この場合、同じ麺ででもうどんではなかったのは、感覚的に納得出来よう。そして、その食べものが一般的なものになるにつれ、〈蕎麦〉という複合感覚と一致しなくなっていた。そこへ「ラーメン」という名称が登場し、そちらの方が一般的になっていったのではなかったのか。

〈ラーメン〉が「ラーメン」と呼ばれるようになったのに必然的な理由があったわけではない。「チョンメン」でもよかったのかもしれない。「ラーメン」と定まったのは、半分以上は偶然だろう。

  ***

次のような状況を想像してみる。まず、日本食の権威とされている人物がいる。世界的にも名が知られているとする。その人物が、ラーメンが一般的に食されていないが、日本食の蕎麦はよく知られているとある国でラーメンとは何かと問われて、「ラーメンは蕎麦である」と発言してしまい、その国のマスメディアで大々的に紹介されてしまった。そんな状況。

この状況において、「ラーメンは蕎麦である」というセンテンスが歪んでいるのか。

日本食の権威である人物についていえば、このセンテンスは歪んでいる。この人物は〈ラーメン〉と〈蕎麦〉の感覚的な違いを知っているからである。(にもかかわらずこのように発言してしまう理由については、後で考察してみる。)

しかし、ラーメンについて知らないその国の人々にとっては、「ラーメンは蕎麦である」のセンテンスの歪みは感知できない。〈ラーメン〉の感覚を知らないのだから、当然だ。そうならば、〈ラーメン〉=〈蕎麦〉という歪んだ知識が広がって行ってしまうことは、必然の成り行きになる。歪んだ知識とは、いうなれば「神話」である。この歪みを正すには、ラーメンというものがその国にも広まって、多くの人が〈ラーメン〉を体験することが必要になってくる。

  ****

次回は原子力発電の「安全神話」について考えてみようと思う。ラーメンから原発へいきなり飛躍する。


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