愚慫空論

インキュベーター その3

資本主義は嫌いですか

フランス王立銀行総裁にして「大ペテン師」
「ミシシッピー・バブル」の舞台になったのは、一七一六年にフランスで設立された「ミシシッピー会社」である。この会社は当初、アメリカにある仏領「ルイジアナ」(といっても今のルイジアナ州だけではなく、今日におけるアメリカの八つの州にまたがる地域)の通商権と開発権を与えられて設立されたが、やがてさまざまな事業を統合し、今日までも比較するもののない史上最大の企業に成長する。この会社の実質的支配権を握っていたのがスコットランド人のジョン・ロウである。天才であったのか、大ペテン師であったのか、今日でも評価が分かれている人物だ。しかし、「ミシシッピー会社」の名前に権威を持たせるために、総裁の地位には、ルイ一四世の弟で、当時は幼い皇帝ルイ一五世の摂政をしていたオルレアン公フィリップがつく。それで、ミシシッピー会社がマラリアと闘いながら、大変な苦労をして、ミシシッピー流域の海面より低い土地に新都市をつくると、その都市には総裁の名前を冠した。フランス語では「ヌーヴェル・オルレアン(新オルレアン)」という。英語読みにすると? そう、「ニュー・オリーンズ」になる。
 ところで、二〇〇八年六月の英フィナンシャル・タイムズ紙に、イギリス人のジェームズ・マクドナルドという評論家が面白い論説を載せている。「サブプライムは一七一九年にフランスが発明した」と言うのである。与信審査もろくにしない、本来価値の低い住宅ローンである「サブプライム」を、トリプルAの証券に仕立て上げるアメリカの金融機関の手法が、「サブプライム危機」発生このかたよく話題にされるが、無価値な証券を人気のある証券に転換する「錬金術」を初めて開発したということでは、ミシシッピー会社がそのさきがけだという主張である。
 気の利いたことを言うものだと感心する。こういうことだ。ここで「無価値な証券」というのは、ずばりフランス国債である。ルイ一四世が乱費をしたせいで、一七一四年の公債残高はすでに国民生産の一〇〇%を超えていたのである。フランスの財政は、まさに破綻の際に立っていた。一七一五年のルイ一四世の死の直前、政府は八〇〇万ルーブルの借り入れをするために、なんとその四倍の三二〇〇万ルーブルという額面の手形を発行しなければならなかったという事実も、それを裏書きする。というわけで、情けないことに当時のフランス国債のステータスは、今日のジャンク・ボンドよりも低かった。
 それを「人気の証券」に転換する。「人気の証券」とは一体、何かといえば、それはミシシッピー会社の「株式」であった。株式に人気があるということならば、その会社の事業内容が何かが気になるところだろう。先に見たようにミシシッピー会社は仏領アメリカにおける通商権、開発権を独占していた。それを足場にして、「人気株」を大量に発行しては事業権の買収を繰り返し、やがては中国貿易の権利も、インド貿易の権利も、さらにはアフリカ貿易の権利も買い占めた。そればかりではない。タバコの専売権も、いや貨幣鋳造権さえ買い取った。さらにジョン・ロウは、フランス国債残高のすべてをミシシッピー会社が買収するという壮大な計画まで発表していた。
 まあ、「ミシシッピー会社」とは、フランスという強大な帝国そのものをM&Aによって丸ごと乗っ取るプロジェクトの「コードネーム(暗号名)」だったと考えていただければ話が早い。それでともかく、一般大衆はミシシッピー会社の株式を買い、ミシシッピー会社はそれで得た金を使ってフランス国債を買う。これで見事、「ジャンク並の国債」を「人気株」に転換する作戦が成功する。人々が望むならば、フランス国債を使って直接、ミシシッピー株を買うことも認められた。なるほど、このほうが手っ取り早い。
 強国「フランス」の買収という気宇壮大な計画を打ち出すことのほかに、ミシシッピー株を「人気株」にするための絶対の「切り札」が、ロウにはもう一枚あった。つまり、彼は「ミシシッピー会社」の支配人であるだけでなく、「バンク・ロワイアル(王立銀行)」という、彼自ら創設した当時のフランスの中央銀行の総裁でもあったので、紙幣の発行を意のままにできたのである。王立銀行総裁としてのロウは、緩和的な金融政策を実行した。つまり紙幣をどんどん発行して、自分が支配人であるミシシッピー会社の株式が市場で順調に消化されることを援護したのである(それはまるで、グリーンスパンの金融政策を見るようだったと、マクドナルドは皮肉っている)。
 残念ながらロウの壮大な計画も、ミシシッピー・バブルの崩壊とともに崩れ去る。ある年、ミシシッピー会社の株価が暴落したのである。それでロウの帝国も同時に瓦解する。結局、初めからこの事業計元画には根本的な問題があったと評価せざるを得ない。当時の通商はリスクの割に利益の少ない事業だったし、ロウが残高をすべて買い取ると発表したフランス国債は、所詮、ジャンク・ボンド以下だった。いかに計画が壮大であっても、事業の実態がこれではちょっと苦しい。マクドナルドの言うように、ロウはペテン師だたったという評価があってもおかしくない。


ジョン・ローの失敗と近年のサブプライム問題を上手く重ねた記述なので、ながながと引用させて頂くことになった。

ジョン・ローが引き起こしたバブルはミシシッピー・バブルと言われる。ちょうどそのころ、イギリスでもバブルが興隆していた。それが弾けたのが南海泡沫事件だ。ジョン・ローの失敗は、イギリス南海会社に多額の投資をしていたことから始まった。

ジョン・ローのバブルを支えたのが、彼が意のままに発行した紙幣である(ゆえにジョン・ローは「紙幣の父」と呼ばれることもある)。ルイジアナという未開の広大な土地が価値を生み出すだろうということで株式を発行し、その株式が価値があるというので、それに合わせて紙幣を発行する。まさに「合わせ鏡」だ。こうした【システム】によって「信用」が創造されてゆき、そして弾けた。

イギリスの南海バブルを裏打ちしたのは仕組みは、少し違う。イギリスではゴールドスミス・ノートの発行から発展した信用創造の仕組みをイングランド銀行が採り入れることで制度が合法化されていた。これも原因は皮肉なことに戦争で、ルイ一四世のフランスとの戦費に不足したことが発端だった。

イギリス発の信用創造は各国の中央銀行制度となり今日まで継続されている。フランス方式は1971年のニクソン・ショック以降復活し、現在はイギリス・フランス両方式が重なり合って強欲資本主義を裏打ちしている。三面鏡のなかの無限反射の世界である。

 参考記事:『連邦準備銀行と日銀の違い:ドル紙幣は貨幣ではなく「利子がつかない小額の国債」』(晴耕雨読)

こうした【システム】が実現してしまうのは、人々の持つ欲望が株式や紙幣といった形で概念性を与えられて、合理的だとされてしまうからだ。欲望に合理性という足場が与えられるから、欲望が正当化されてしまう。さら欲望は合理性の足場を膨張し、その膨張部分にも合理性が与えられる。際限がない。

インキュベーター(キュゥべえ)の役割は、そうした際限のない、しかし、実体としての根拠は非常に貧弱な【ザ・システム】の世界のなかにイノベーション(〈願い〉)を招き入れることである。この【ザ・システム】の中に入り込んだ者は、闘うことを義務づけられる。企業として存続するために。勝ち上がった企業は強欲の塊、すなわち魔女と化す。アップルやアマゾンの強欲ぶりをみてみるといい。

彼らの強欲は、合法的であり合理的である。もし、そうした彼らの強欲を何とかしたいと思うのであれば、新たなイノベーションや〈願い〉を掲げて【ザ・システム】のなかで闘争して勝しかない。才能のある者にはインキュベーターがやってくるだろう。

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