愚慫空論

インキュベーター その2

情報の歴史を読む

 市場の原理をつくったのはイギリスでした。一七〇七年にスコットラゾドを併合して、大英帝国(大ブリテン王国)となっていたイギリスです。だいたい「チープ」という英語が「物々交換」とか「値段」とかを意味するアングロ・サクソン語で、チープジャックといえば行商人のことをさしていた国なのです。そして十八世紀以前、イギリスの投資家にとっては、アメリカ大陸がチープの対象になってきます。
 そこへもってきて、一七一七年にジョン・ローの私立発券銀行が国王直属の銀行に位があがり、ルイジアナ投機熱をあおりたてた。誰だってアメリカ大陸に投資すれば一獲千金を手にできる時代です。それから数年もたたないうちに、イギリスで最初のバブルがはじけ、フランスはジョン・ローのインド商会に投資しすぎていたために、ひどい煽りをくらいます。これがいわゆる「南海泡沫事件」です。史上最初の経済バプルですね。ということは、この段階でフィクショナルな情報文化の領域としての、つまり“鏡としての市場”ができていたということです。
 ジョン・ローの失敗は、のちにゲーテが『ファウスト』第二部でメフィストフェレスの商売としてとりあげます。しかし、それからまた数年もたたないうちに、今度はパリで商工会議所が設立され、一七二〇年代にはパリっ子は株式取引に夢中になっていく。そこにはジョン・ローが“ザ・システム”とよんだにふさわしい、何か目に見えない劇場的・市場的な虚構性がはたらいたわけでした。ロココはこうした市場の動向からもこぼれ落ちてきた美の意匠です。
 この一連の動向には、それまで隠されていた貴族や豪商たちの欲望というものは、それにうまく鏡をあわせるシステムさえあれば、それまで人類が知らなかったとんでもない可能性と危険性が引き出せるのだということを知らせます。それは何かというと、それが資本主義というものでした。


先に、インキュベーターはメフィストーフェレスであるという指摘はしておいた。
(以下、『まどか☆マギカ』のキャラであるインキュベーターは「キュゥべえ」と表記する。「インキュベーター」は、新たなベンチャービジネスを育てる者という、ビジネス業界における意味とする。)

そして、ジョン・ローはメフィストーフェレスである。ジョン・ローの企ては失敗したが、しかし、そのジョン・ローが“ザ・システム”とよんだ「なにものか」――欲望にうまく鏡をあわせるシステム、すなわち資本主義は今日も(大失敗しつつあるように見えるが)未だ生き残っている。つまり、未だメフィストーフェレスはこの世界に跋扈している。

インキュベーターの役割は、新たな「願い」に経済合理性を与え「ザ・システム」の中に繰り入れることだ。繰り入れられた新たな「願い」は、経済の世界では「イノベーション」と呼ばれている。

キュゥべえの役どころもまた同じである。新たな「願い」を「ザ・システム」の中に繰り入れることだ。ただ、もちろん、アニメの話だから違いはある。ここでは合理性は奇跡に置き換えられているし、「ザ・システム」とは熱力学第二法則に抗う仕組みにというものだった。そしてキュゥべえの悪魔性は、『まどか☆マギカ』で設定されている「ザ・システム」の悪魔性に由来する。

と考えていくと、現実世界のインキュベーターも、資本主義という「ザ・システム」に悪魔性があるならば、その役どころはやはりメフィストーフェレスのそれだということになるだろう。

では、資本主義に悪魔性はあるのか? そう問えば、その悪魔性はますます強まっている、というのが素朴な感触だろう。資本主義はどうしても「強欲」を涵養してしまう性質があって、経済グローバル化はますますその「強欲」を巨大なものにしてしまっている。

しかし、教科書的な資本主義についての理解、すなわち「社会に資本を投下することで資本を運動させ、その運動から利潤や余剰価値を回収する」といった理解からは、悪魔性は見えづらい。では、資本主義の悪魔性はどこにあるのか。

 「欲望というものは、それにうまく鏡をあわせるシステムさえあれば、それまで人類が知らなかったとんでもない可能性と危険性が引き出せる」

つまり、資本主義というシステムは「他人の欲望を欲望する」ことに合理性を与えてしまった、ということなのだ。そして、その道を切り拓いたパイオニアのひとりがジョン・ローだったということだ。それも、奇跡というべきか詐欺というべきか、とにかく「天才的」な方法を発明したのだった。

続く。

(『まどか☆マギカ』ネタのエントリーは、こちらから。
 → 『魔法少女まどか☆マギカ』

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