愚慫空論

『困ってる人』

困ってるひと 前エントリーで提示した【良心】に関連して、本を一冊紹介してみることにする。大野更紗著『困ってるひと』。

この本はベストセラーになっているようだし、ネットでにも掲載されているからご存知の方も多いと思う。私はビデオニュース・ドットコムで知って読んでみようと思っていたら、訪れた図書館で新着図書のコーナーに並んでいるのを発見。即、借り受けてきた。

で、就寝前に少しだけ読んでみようかと読み始めたら、これが面白くて止らず、結局最後まで読み通してしまった。文句なしにお勧めの本で、しかもほぼ万人向け。「ほぼ」というのは、読まない方がいいかもしれないと思われる層がないでもないからだが、そのあたりの理由は後述する。

著者である大野更紗さんは、不運なことに難病を患ってしまう。彼女はその難病とそれに伴う「困難」によって難民となり、難民の境遇から抜け出すための闘争を開始する。病気の性質ゆえ彼女は未だに闘争中のはずだが、この本は難病と「困難」への闘争へのプロローグだといってもいい。この本は、「困難」との闘争の部分が秀逸なのである。

この「困難」の原因になるのが【良心】。
【良心】とは「固定化され良心」だが、もう少し説明しておくと、
 ・人は自身の心の中に悪心が生じるのを嫌う。
 ・そのために、悪心が生じてしまう事象そのものにコミットメントするのを避けようとする。
 ・コミットメント回避のための口実として使われるのが、【良心】である。

この説明でもはわかりにくいかもしれないが、本書を読み進めてもらえば容易に理解出来ると思う。

体調不良の原因が判明せず、あちこちの病院を放浪するさなかでの医師達。
やっかいなものにはなるべく関わりたくない。が、そうは言えないので【良心】的に振る舞う。

当初は困り果てた彼女にとても良心的に接してくれる友人たち。彼女もそれに縋るようになる。
だが、やはり、次第に重荷になってゆく。そして【良心】的な言葉を更紗さんに告げることになる。

やっと巡り会えた彼女を受け入れてくれる病院。凄まじいばかりの闘病。きわめて良心的な素晴らしい医師達。
だが、そんな医師にさえも、【良心】は存在する。自活のための闘争を始めようとする彼女に、その【良心】が立ち塞がる。

そして極めつけは「困ってるひと」を救済するはずの行政。【良心】ですら形骸化しモンスターのゾンビかゾンビのモンスターか。

更紗さんは難病と闘いつつ、さらにこれらの「困難」とも闘い、ときに折り合う。「生きる」ために。
本書を読むと、「生きる」ということの意味が本当によくわかる。

このように羅列するとヒジョーに重たい感じに思われるかもしれないが、さにあらず。軽やかとも言える筆致で、快調に読み進めることが出来きてしまう。文面に「生きる」力が踊っているから。驚異的な、もの凄い生命力である。

更紗さんが「生きる」ことを決意する場面がある。その決意をもたらすのは、なんのことはない、恋である。
彼女は20代半ばの女性。恋が決意をもたらすのは、ごく普通になんのことはない。
だが、心身の状況はまったくもって、なんのことはなくはないのだ。

誰もがご存知だと思うが、恋は力を生み出すが、恋に踏み出すのにも力がいる。
彼女は、どん底の状態で恋に踏み出す。なんのことはない、まだどん底ではなかったというわけだが、この「なんのことにはない」には驚嘆させられてしまう。ふつうなら「なんのことはない」とはいかないだろう。

(もうひとつ言うと、彼女が決意する理由は命懸けの「なんのことはない」をふつうの「なんのことはない」とうけとられてしまったこと。これも【良心】のなせる業なのだが、詳しくは本書をどうぞ。)

先に触れた、読まない方がいいかもしれないと思われる層がある理由は、この驚異的な生命力である。
元気な人は、本書から更なる「生きる」力を受け取るだろう。
少々元気をなくしている人も、受け取ることが出来る。
だが、「生きる」力が萎えてしまっている人には逆効果になる可能性が高い。
そんな者を元気づけるために読ませたりしない方がいい。
更紗さんだって、自身がどん底のときに本書を読みたくはなかっただろうと思う。

それにしても、この驚異的な生命力はどこからくるのだろか。
子どもを産む性ということだろうか。
私は「ムーミン谷」出身というところも大きいと踏んでいるが。

コメント

小説ではないのに

『困ってる人』、読みました。

途中から、のみ込まれるように終わりまで一気に!

この先は? と思いましたが、ふっと立ち止まりました。
小説の世界ではないと思うと、戸惑います。
「困ってる人」とは正しいタイトルなのです。

更紗さんは、「新種」です。真似できるものではありません。
この本のお蔭で、行政のあり方が変えられるようになるレベルだと思います。

「新種」ですか(^_^;

・amerieさん、おはようございます。

そうですか、読んでしまわれましたか。

面白いですよね、文句なく。でも、小説じゃない。過ぎ去った過去の笑い話でもない。現在進行中の話。それをよくもまあ...、と思います。

この本のお蔭で、行政のあり方が変えられるようになるレベルだと思います。

期待したいですね。また、他にも「困ってる人」はいるはずですが、そうした人たちも同じような形で情報発信してくれればと。「偏差値競争に参入せよ!」ではなくて。

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