愚慫空論

『原発社会からの離脱』を読んだ

amazon の予約販売で注文し、昨日届いた。早速読んでみた。

本書を敢えて一言でいってしまえば、「愚痴」ということになろうか。日本は知識社会ではない、という愚痴。オビにあるように、「これからのエネルギー」と「これからの政治」について語られている。「これから」というのは知識社会のこと、要するに“日本も知識社会になりましょう”と言いたいわけであるが、日本社会の現状を分析すると愚痴になってしまう。本書はそんな本なわけだ。

もちろん愚痴とはいっても、そんじょそこいらの愚痴でないことは言うまでもない。この愚痴を読めば、日本社会の病状が概観できる。また、宮台氏も飯田氏も愚痴るだけの人でないことも言うまでもない。真摯に現実的な活動に取り組んでおられる。ゆえに希望も提示されるが、全体としてのトーンは愚痴っぽくなりがちに感じる。これは、それだけ日本社会の統治機構が愚昧だということであり、その現実を直視するがゆえに愚痴にならざるを得ないということだろう。

愚痴の規準は知識社会である。では、知識社会とはどんな社会か。

飯田 私がスウェーデンで感じたことですが、あの国は社会が変わるということを国民全体が前提としています。その上で、どう変わるかについて国民全体がコミットし、ルールややり方を絶えず積み上げながら、社会を営んでいる。(p.59)


知識社会とは、単に知識(情報)が溢れる社会のことではない。知識を軸(私の言葉でいうと〈強い絆〉)に、変わってゆく社会。そのことが社会の前提として社会の成員に共有されている社会のことを指す。そのような社会では、社会が変わるかわりに個人とそのライフスタイルは頑なに守られる。が、日本はそんな社会ではない。

宮台 その背景には、山本七平が言うように、日本人の多くに、自分たちの生活形式がどういうものであるのかということを反省的に理解する、宗教社会学的習慣がないということがあります。ユダヤ教やキリスト教やイスラム教は唯一絶対神を掲げる宗教だから、生活様式が神の意志を裏切っていないかどうかに絶えず関心を寄せます。日本には唯一絶対神ならぬアミニズム的存在――例えば妖怪――しかいない。近代化して学校ができれば「トイレの花子さん」が登場します。生活様式の変化を照らし出す不変の宗教的存在はありません。だから、モノだけではなくて、生活や時間の使い方全体がギミックになってしまうのです。(p.85)


そんな日本で変化の軸になるのは、実は卓越した「個人」である。福島県や東京都を始め、後半にはその実例がいくつか出てくる。が、軸が個人であるがために、その個人が脱落すると変化も止る。そして組織と個人では、組織の方が力が強いのが現実。日本社会が変わらないのは「組織的抵抗」が強いためであり、それが対談者ふたりの愚痴のものになる。

以下は私見。

日本社会が知識社会になどなれる道理がない。宮台氏も指摘しているように、それは宗教的だと言われるほどに長きにわたる文化の蓄積がある。そんなものが一朝一夕に変革できるはずがない。西洋と日本のこの文化的ギャップは、明治の頃から夏目漱石を始めとした文化人たちが懸念していたことで、今日に至ってそのギャップはかえって広がっていると見た方が良い。

日本では社会は容易に変わらない。その代わり個人は容易に変わる。
個人の多くが変われば社会が変わらざるを得ないのは当然。個人の変化を阻むのは社会の「空気」だが、逆に言うと「空気」が変わると社会も大きく変わる。

明治以降日本の社会が変わらなくなったのは、西洋流の知識が日本の個人を“変わらなくて良い”というメッセージを発する「空気」の発生源となったことである。身分制が崩壊した近代日本では知識人が社会の中枢を担うエリートとなり、組織を運営した。だからエリートほど変わらず、組織的に変化を妨害する。卓越した個人はその「空気」の軛を超えるが、実はそのような個人とは〈強い絆〉を保持した個人である。飯田氏の記した本書の「あとがき」を見てみればよい。

日本の〈強い絆〉の在り方は西洋とは異なる。中国とも異なる(ロシアとはもしかしたら似ているかもしれない)。日本は個人的に〈強い絆〉を〈世界〉と取り結ぶ。いや、〈強い絆〉を取り結ぶことで個人になる

日本の悲劇は、日本人が〈強い絆〉を取り結ぶことが難しくなってしまったところにある。〈強い絆〉があれば不安があっても前へ進める。「安全神話」が虚構に過ぎないのはいまや明らかだが、にもかかわら「別の神話」が作り出されようとする動きが未だ健在なのは、〈強い絆〉を喪失した者たちがそれを求めてしまうからだろう。

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