愚慫空論

「もの」の経済学

日本語の「もの」という言葉には、大きくふたつの意味がある。

1.人が感覚で感知できる有形の物体・物質。
2.あると考えられる無形のことがら。

1.は物理学で扱う「もの」。
2.は心理学で扱う「心」をも含む「もの」。
 「もののけ」というときの「もの」。

経済学はふつう、1.の意味での「もの」を扱う。
だから大半の理論が物理学に似せて構築される。
本書では1.と2.双方の意味での「もの」を扱おうと試みられている。
だから、ふつうの経済学とは全く違ったものになっていて、
また、それゆえに『経済学の船出』。

 普通の人の普通の感覚というものは、意外に鋭いものであり、「なんだか変だな」と感じることには、それなりの理由が潜んでいる。ただ、人間というものは、いろいろなことを思い込むように仕向けられると、これまた意外に弱い。そのため、「変だな」と思いつつも、「まあいいか」と受け流して、思考停止に陥ってしまいがちである。
 本書の目的は、社会や経済についての良識に基づいた理解を支えるための、理論的根拠を与えることである。ここで「良識」と呼ぶものは、「なんだか変だな」という感覚のことである。読者がその感覚を把持し、奇妙なものごとに出会ったときに、「まあいいか」とやり過ごさず、自分自身の内的ダイナミクスに基づいて、独自の思考を展開するための手がかりを提供すること、これが本書の目指すところである。


書き出しを引用してみたが、これだけ読んで経済学についての書だと思う人はいないだろう。

経済とは、必要な「もの」を必要されるところへ届けることである。
必要な「もの」が必要とされるところへ届くと、創発が起こる。
創発とは、生命あるものがその内的ダイナミクスに基づいて起こす「何ごとか」である。

生命のダイナミクスは、本書では「神秘」として取り扱われている。
しかし、それはあくまで合理的に。
「神秘」を非合理と決めつける枠組みへの批判が、本書の主題である。

 本書のタイトルに「海」が出てくるのは、宮崎駿のアニメーション映画『崖の上のポニョ』の影響である。この映画の主題は、生命の汪溢する海の姿を描くことであると私は感じた。劇中の「ステキな海! 魔法の力に満ちていて。まるでデボン紀の海に戻ったよう」というセリフが端的にそれを表現している。「創発の海」というのは、そのような生命の力に満ちた海をイメージしている。人類が自ら引き起こした地球の危機は、効率を改善したり、回収率を上げたりするような、小手先のことで何とかなるものではない。近代というものが立脚する基本概念を洗い出し、呪縛を抜け出して人類の持つ「創発」の力を取り戻すよりほかはない。これまでの経済学が志向したような、古色蒼然たる個人主義的分析的枠組みは、もはや何の意味もなくなっている。経済学は、生命の汪溢を実現すべく、ポニョの海へと漕ぎ出さねばならない。私は本書で、そのための第一歩を踏み出したいと考えている。


意欲的。野心的。挑発的ですらある。

なお、本書の著者である安富歩氏は、ブログも開設されている。
こちらも大変面白いので、紹介しておく。

『マイケル・ジャクソンの思想(と私が解釈するもの)』

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