愚慫空論

『ハラスメントは連鎖する』(2)

『ハラスメントは連鎖する』では、ハラスメントを仕掛ける人(加害者)を「ハラッサー」、仕掛けられる人(被害者)を「ハラッシー」と呼びます。

ハラッシーがハラッサーからハラスメントを仕掛けられると、ハラッサーの〈魂〉は呪縛されます。呪縛が強まると、ハラッシーは自分が被害を受けているという認識すら捨てることになり、自分の精神的・物質的資源をハラッサーに奪われることになります。

 しかし人間は、自分の生気を奪われままでは生きていけない。そこでハラッシーは、奪われた資源をなんとか取り戻そうとする。とはいえハラッサーから奪い返すことは恐ろしくて出来ないので、ハラッシーは自分にハラスメントを仕掛けない人にハラスメントを仕掛け、その人の資源を奪い取ろうとする。つまり、ハラッシーはハラッサーになる。
 まるで、吸血鬼に血を吸われた人が、吸血鬼となって他人の血を吸うようなものである。こうして吸血鬼になった人を我々は「ハラッシーハラッサー」と呼ぶ。(P.45)

「吸血鬼の原理」がハラスメント伝播の原理 です。

「吸血鬼の原理」とはいかにも大袈裟なようですが、決してそうではありません。ハラスメントは〈魂〉を呪縛する。改めて〈魂〉とは何かといいますと、それは「自分の感覚」です。人間は生まれながらに生存していくための感覚を持っており、この感覚が生存の羅針盤。そして、「自分の感覚」つまり「自分自身」を信じることで生じてくるのが「生気」です。ハラスメントはこの「生気」を奪う。「生気」を「生き血」だとすれば「吸血鬼の原理」は決して大袈裟ではありません。

このことは46ページから示される「具体的情況」にもよく示されています。
(ここは実際に本にあたって読んでみてください。)

さらに。

 ハラスメントは家庭や職場に限られるものではない。社会全体にハラスメントの悪魔がとりつく場合もある。その典型的なケースは軍国主義や植民地支配といった問題である。

日本の軍国主義から生じたハラスメントの一端は、『偽りの成功体験』で引用させてもらったのでそちらを見ていただくとして、植民地支配ではどのようなことが起きるのか?

 彼は、あるひとつの小さな事件を目撃した。それは、朝鮮人の花嫁を輿に乗せた行列がやってきたのを一群の日本人の男どもが見つけ、面白半分にむりやり行列を止めて花嫁を降ろし、輿に乗り込んで周囲を一周させたという事件である。

このような出来事が植民地では終始生じていたのであり、そうして沢山の魂が植民地独特のやり方で傷つけられていった。この傷が、現代の我々に対して叫び声を上げているのである。
 この傷は、放置しておいても解消するものではない。なぜなら、植民地支配を受けた世代が死に絶えたとしても、その傷ついた魂を持つ人々によって育てられた魂には、同じ傷が刻印されていくからである。
 自分が苦しめられた記憶に正面から立ち向かって克服することを許されず、泣き寝入りさせられてその記憶を封印させられた者は、無意識のうちに同じ傷を自分より弱い人に負わせようとしてしまう。もっとも傷つけやすいのは、幼い子供である。

 最初の世代はまだましである。なぜなら、どうして自分の心が傷ついているかを知っているから。もし勇気を持って立ち向かうなら、自分の心の傷と正面から向かい合うことができる。
 しかし二代目以降は悲惨である。なぜなら、どうして自分の心が傷ついているのか、サッパリわからないからである。

 この傷を持つ若者が、学校で歴史の時間に、植民地支配の様相を知れば、なぜだかわからないが、何とも言えない感情がこみ上げてくるのは当然である。その直接の関連性を意識しなくとも、無意識の何かが作動するからである。

 このような傷が、「反日」という形で噴出していることは、我々にとってむしろ歓迎すべきことである。その思いは歪んだ形をしていても、正しい方向に向かって投げかけられているからである。
 もし彼らの心の傷が、植民地支配の知識を持たないために隠蔽されたままであれば、それは治癒することが不可能となる。彼らは理由のわからない憤激にさいなまれ、ハラスメントの悪魔を撒き散らすことになり、事態はさらにやっかいなものになる。
 せっかく「反日」という形で悪魔が姿を現わしているのに、
「そんな感情を抱くのはおかしい。日本に感謝しろ」
 とハラスメント的な対応をすれば、悪魔はさらに増殖する。(以上 P.65~68)



では、どのように「ハラスメントの悪魔」と対峙すればよいのか?

「強者の非暴力」であると著者はいいます。

 社会の本当の敵は「悪人」ではなく「悪意」である。悪意を持ったコミュニケーションに目をつぶるなら、それは悪意を増殖させる。それはまさに「悪魔」と呼ぶのがふさわしく、悪人よりずっと手ごわい。主たる敵を悪人だと取り違えて暴力を用いて排除をはかるなら、その暴力そのものが悪魔を増大させる。悪魔と戦うために暴力は無用であるばかりか、逆効果である。
 悪魔との戦いは非暴力に依るしかない。しかもそれは弱者の非暴力であってはならず、強者の非暴力でなければならない。
 言うまでもないが、これはモーハンダース・カラムチャンド・ガンジーの「サッティヤーグラハ」の思想である。これは直訳すれば「真実にしがみつくこと」であり、ときに「魂の力」とも言い換えられる。ガンジーの思想は、魂を呪縛から解放することを闘争の主たる目的とする。


引用だらけのエントリーはまだまだ続きます。

コメント

お久しぶりです。まだエントリ途中のようですが、すごく考えさせられる内容で面白いです。
ハラスメントの連鎖を断ち切る鍵が、強者が暴力を放棄することだ、というのはそのとおりだと思います。暴力により圧倒する能力があるにも関わらず、あえてそうしない、というのに優るメッセージはないとつくづく思います。

中東で起きていること、一家庭内でおきていることも違いはスケールの差だけで、怨嗟の呪縛こそが悪魔であり、それが弱者に転換されている、、、。ハラシーがハラサーになるだけでなく、いつのまにか強者になっているにも関わらず、ハラシーとしての記憶から逃れられない。

続きのエントリーを楽しみにしています。

みーぽんさん

ほんとお久しぶりですね。再訪、ありがとうございます。

力により圧倒する能力があるにも関わらず、あえてそうしない、というのに優るメッセージはないとつくづく思います。

はい。まだ本文の方では触れていませんが、このことは「強者」の定義とも関わってきます。つまり本当の「強者」とは暴力や権威に依存しなくていい人、自らに備わった「感覚」という羅針盤だけを頼りに生きていける人です。


> 中東で起きていること、一家庭内でおきていることも違いはスケールの差だけで、

それはそうでしょう。同じ人間が起しているのですから。スケールが大きいと現象も複雑になりますが、原理は同じはずです。

続きのエントリーを楽しみにしています。

ありがとうございます。
ここのところ、体力的にきつい作業が続いているので更新は途絶えがちになるでしょうが、頑張ってみます。

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