愚慫空論

偽りの「成功体験」

個人の物理的次元での「成功」は、周囲の認知によって精神的次元での「成功体験」へと変換される。そうした「成功体験」を誰もが必要としている。

『誰にでも「成功体験」が必要だ』のエントリーでそのようなことを述べました。

しかし、この「成功」⇒「成功体験」への回路は、しばしば「失敗」⇒「成功体験」の回路に置き換えられてしまうことがあります。「成功体験」は周囲の認知に左右されてしまいますから、周囲の認知の在り方によっては「失敗」も「成功体験」へと変換することができてしまいます。

ハラスメントは連鎖する 「しつけ」「教育」という呪縛 (光文社新書)

 靖国神社は、日本帝国が主体となった戦争で戦死した人々の例を慰める祭礼を執り行う機関である。しかしそれは同時に、戦死者の遺族をハラスメントに掛ける装置としても機能してきた。
 如何なる事情によってであれ、愛する夫や息子が死んだなら、遺族は大変な悲しみに襲われる。これは人間にとって普遍的で自然な感情である。この悲しみに沈む人々を見れば、その周囲の人も深い同情を覚えることになる。これも人間として当然の感情である。
 この悲しみの連鎖は、しかし、戦争を遂行しようとする国家にとって、まことに不都合である。戦死者が出るたびに、悲しみの衝撃が走れば、戦争を継続するのが困難になる。五人、十人なら平気であるが、何十万、何百万となれば、放置できない。
 そこで戦死者の霊が、靖国順者に祭られ、神となり、天皇の拝礼を受ける立場に立つという物語が創造された。これは死地に赴く兵士を鼓舞する機能を持つばかりではない。この物語は、遺族が、愛する者の死を、喜びをもって認識するという倒錯を生じさせる。
 これは確かに、短期的には兵士の死を遺族が乗り越えて生活を続ける上では効果がある。しかしこのとき、遺族が愛する者の死を受け止め、深い悲しみから立ち上がるという、治癒の過程が停止される。その代わり、愛する者が神となったことを喜ぶという物語が与えられ、悲しみが封印される。これを高橋哲哉は「感情の錬金術」と呼んだ。
 しかしこの錬金術によって、人間は普遍的な愛する者への死という悲しみの感情が消えてなくなるわけではない。それはそもそも不可能である。遺族にできるのは、悲しみを感じないフリをすることだけである。それで自分自身を欺すことはできるかもしれない。そえでも、無理矢理、封じ込められた悲しみは、深い傷となって心の奥底に抑圧され、疼き続ける。この疼きから逃れるために、遺族はますます深く靖国の者がたちに依存せざるを得なくなる。
 愛する者の死に際する「最大級の悲しみ」という感情に、「最大の喜び」というラベルを押しつけるという行為は、最大級のハラスメントである。


「失敗」が「成功体験」へと誤変換されてしまった「偽りの成功体験」は魂を呪縛します。それは「失敗」から逃れたいという、これまた人間の普遍的な感情が働くためでもあります。「偽りの成功体験」はそこへつけ込むのです。それも善意によって。

「偽りの成功体験」によって呪縛された魂は、「誤変換」の「正しさ」に拘泥することになり、他の「正しさ」を排除することになります。

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