愚慫空論

『おいしい関係』

今日はマンガの話。それも少女マンガを取り上げてみたいと思う。

おいしい関係 (1) (ヤングユーコミックス)おいしい関係 (1) (ヤングユーコミックス)
(1993/07)
槇村 さとる

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全16巻。wikipediaを見るとTVドラマ化されてもいるらしいが、そちらを私は知らない。

このマンガのテーマを一言でいうと「愛は技術である」。このテーマが一貫してストーリーの縦糸のなかに織り込まれている。


主人公は、藤原百恵という女性キャラクター。
百恵

きっとあの娘は質のいい愛情を浴びるように注がれて育ったんだよ
だから人に幸福を見せてあげられるんだ
傷ついた人間にとって彼女は水先案内人になるのさ

要するにお嬢さま。そのお嬢様が、父親の死によって自立を迫られコックとしても道を歩み始める。そして、コックとしての成長と共に、お嬢様を脱皮して自立した女性に成長していく。これが縦糸たるストーリーの中心線。

この中心線に絡んでくるのが、織田圭二という天才コック。「レストランに捨てられた子ども」。
圭二
あいつはね、「自分と料理」「料理と自分」―おわり!
料理オタクだ、ありゃ

と評されるような性格だが、

なんで織田圭二なんだろう
あんな人見たことない

いつも心を閉じて
人を求める事が下手で意固地で頑固
なのにつくる料理は人の心を癒す
きめが細かくて落ち着いて心にしみるやさしさ
愛情が料理の形をして私に届いた
(セリフは百恵。なお、上の2つは織田圭二と同じく天才コックの高橋薫。)
薫
このセリフから察することができるとおり、少女マンガお約束の恋愛が百恵と圭二の間で芽生える。といっても最初は百恵から圭二への一方通行、片思い。圭二と百恵は師弟関係で、料理の中の愛情から圭二に惹かれた百恵はそれが恋愛感情に発展していくが、圭二にとって百恵は弟子に過ぎず、圭二の関心はおなじく“捨てられた子ども”であった今村可奈子に向く。
可奈子
百恵と圭二が出会ったプチ・ラパンという洋食屋から独立した圭二は(百恵はそれ以前に圭二の元から離れ、高橋薫のもとで修行している)、可奈子と組んで自分の店を開く。

織田圭二はずっと潜伏していたから、みんな固唾を呑んで見守っているんじゃない?
彼の腕は他の店を脅かすわ
(可奈子)
織田さんは、そんなミサイルみたいな装甲車みたいなもの――!?
さっき「ただ食わせたいだけ」って言ってたよ――
(百恵)

可奈子にとって圭二の料理は単なる才能であり技術であって、愛とは無関係。愛は技術だが、技術が愛とは限らない。可奈子は愛と技術とを切り離すが、コックである圭二は、自分が調理する料理に愛を感じずにはいられない。そのすれ違いが2人を破局に導く。

一方、百恵はその間にコックとしての腕前を上げ、料理において愛を表現する技術に磨きをかえていく――。

*****


「愛は技術である」というと、思い起こすのはエーリッヒ・フロムフロムは『愛するということ』という著作の冒頭で

愛は技術だろうか。技術だとしたら、知識と努力が必要だ。それとも、愛は一つの快感であり、それを経験するかどうかは運の問題で、運がよければそこに「落ちる」ようなものだろうか。この小さな本は、愛は技術であるという前提のうえに立っている。しかし、今日の人びとの大半は、後者の方を信じているに違いない。

愛するということ愛するということ
(1991/03)
鈴木 晶Erich Fromm

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と記している。フロムが『愛するということ』を出版したのは1956年、すなわち今から半世紀も前のことだが、フロムが指した“今日の人びと”と21世紀に生きる我々とは、愛についての認識については何も変わっていないといって、差し支えなかろう。

*****

『おいしい関係』の主人公である藤原百恵は、お嬢さんであるというだけでなく“一流の食べ手”として登場してくる。裕福な家庭に育ち、料理を味わう繊細な味覚を育まれている。百恵は、“料理の一流の食べ手”であると同時に、“一流の愛の受け手”であった。だからこそ圭二の料理から愛を感じることが出来た。そしてその愛に報いることを志したとき、自分には愛を表現する技術がないことに気がついた。

愛は能動的な活動であり、受動的な感情ではない。そのなかに「落ちる」ものではなく、「みずから踏み込む」ものである。愛の能動的な性格を、わかりやすい言い方で表現すれば、愛は何よりも与えることであり、もらうことではない、と言うことができよう。
(『愛するということ』より)

愛はあるのに表現できない、すなわち能動的であることができないジレンマを克服するために、百恵はコックへの道を精進する。愛は技術であると同時に人間が能動的であろうとする動機でもあるのだ。『おいしい関係』というマンガは、料理という素材でもって、「愛は能動的であることへの動機である」の縦糸と「愛は技術である」の横糸とで織り成されている。「動機としての愛」と「技術としての愛」とが“おいしい関係”として描き出されている。

*****

もうひとつ、本を紹介させてもらおう。

食の位置づけ~そのはじまり食の位置づけ~そのはじまり
(2008/08/05)
辰巳 芳子

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著者の辰巳芳子は、著名な料理家であるらしい。1924年生まれ、聖心女学院卒業、料理研究科の草分けであった母の薫陶を受けて料理の道へ入ったという経歴からすると、著者もまたお嬢様であったのだろう。そうした女性が長きに渡る食の道を歩み、到達した場所は、もっとも根源的な意味での「母」であるような気がする。

コメント

愛の表現の技術ですね

師匠の守備範囲の広さにはびっくりです、、、。「おいしい関係」は連載中に読んでいたし、フロムの「愛するということ」は愛読書なので、思わずコメントしています。
槇村さとるのマンガは生い立ち、性格、心理の書き方がとても鋭く、当を得ているので好きなのですが、、
>『おいしい関係』というマンガは、料理という素材でもって、「愛は能動的であることへの動機である」の縦糸と「愛は技術である」の横糸とで織り成されている。「動機としての愛」と「技術としての愛」とが“おいしい関係”として描き出されている。

コレもまた唸ってしまうような表現ですねー。さすが。

わたしが夫婦関係ではどっちかというと織田タイプ、夫が百恵タイプなので、気持ちや感情としては愛でいっぱいの夫が、わたしが欲しいという形で愛情表現する技術(ありていに言えば家事能力ですね)が欠けているのでわたしはイライラする、、というパターンであることを連想してしまいました。(「愛を伝える5つの方法」という本に詳しいです。)

関係が成長するには、互いに愛する(&愛されるもあるかな)技術を磨き合うことが必要なわけで、ちょっと個人的に反省させられてしまいました、、。

昔から少女マンガはけっこう好きですよ

なんてったって、マンガ世代ですし。少年時代は「ケッ! 少女マンガかよ」ってな感じでしたけど、いろいろといろいろに仕込まれました。同性であっても異性であっても、また肌の色が同じでも違っても、コミュニケーションが成り立ては互いに“仕込まれる”ものですし、実りも大きい。私は議論するより、よほど仕込み仕込まれるコミュニケーションの方がためになると思っているんですけど...、って、あ、少し見当違いの返答ですね。

それにしても、フロムと少女マンガを結びつけたエントリーにコメントがあるとは思いませんでした。それも社会科のみーぽんさんから(笑)。

ありがとうござます。うれしいです。

この、おいしい関係。ぼくが初めて読んだ
少女漫画でしたー。母親の影響で読み始めて。なんか少女漫画読むこと自体、はずかったんですねー。 超コソコソ読んでました(笑)読んでみると少年漫画と全くちがって。ひびりましたね、正直(笑)

……いやでも、この本はすっごいたのしくよめました。まきむら氏の作品には、ちょっとなんてゆーか…こわいとこもあって。てもそのあとは物事が気持ちよく収まって。そこがやっぱ、すごい!


この本から、あんなとこまで読み取るって、すごいですね(笑)                  
 

愛は技術

・rd-4645さん、コメントありがとうございます。

まきむら氏の作品は、こわい。笑。確かに。『イマジン』なんかこわかったな。

って、私はこの『美味しい関係』と『イマジン』しか読んでないんですけど。

少女マンガを読むこと自体、恥ずかしかった。笑。わかります。母親の影響なんて、友達に言えませんよね。でも、女友達からの影響だったら言えますかね? 

しかし、誰からのものであれ、rd-4645さんが影響を受けたということは、それは「受け手」としては優れていたということ。そこから先、それを恥ずかしがらずに能動的な「贈り手」になるには、やはり技術が必要だということでしょう。rd-4645さんがそうした技術、つまり『美味しい関係』はこんなに素晴らしいんだぞ! と表現できる技術があれば、恥ずかしがらずに済む。

そのあとは物事が気持ちよく収まって。

そうそう。それはまきむら氏の技術。もちろん、それだけではないですけど。そして、その表現を受け取ったなら、受け取ったと表明するのも技術。

何をするにせよ、技術は必要だということですね。

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