愚慫空論

カツオブシ社会

非国民通信さんが7/29に『「カビ型」と「ムシ型」』というタイトルで記事を書いておられます。

「カビ型」「ムシ型」の概念は、非国民通信さんもリンクを張っておられますが、日経ビジネスのコラムが出所。そして、私も非国民通信さん同様、この2つの概念はなかなか面白いと思います。

日経ビジネスのコラムでは、いちおう違法行為に焦点を当ててこれら2つの概念を適用しているのですが、ニュアンスとしては、米国と日本とを比較して、それぞれの国の国民性というところにまでこれらの概念が適用できるような書き方をしてあります。談合問題をカビ型の典型としてありますが、談合なんてのはまさしく日本的であるわけで。

日本をカビ型、米国をムシ型とする比喩は、なかなか的確なものであるように思います。日経ビジネスのコラムおよび非国民通信さんの記事は取り付く対象を人間が営む社会として捉えていますが、その対象を自然、つまり自然に取り付いている人間がカビ型なのかムシ型なのかと視点で眺めてみようというのがこの記事です。


その視点で見て、日本はカビ型の比喩から連想したのが、カツオブシです。カツオブシは日本の食卓には欠かせない品物ですが、その製法はご存知の通り、カビを利用します。カビのタンパク質を分解能力を利用して旨味の元であるアミノ酸を作り出す。また水分をなくすことで保存が利くようにもなる。カツオブシは日本人の知恵の1つの象徴のようなものです。

そもそも「農の営み」(あえて農業とは言いません)は、カビ型です。人の手が触れていない自然を鰹だとすれば、農民は生の自然にカビのように作用し、カツオブシに相当する農地を生み出し、人間にとって旨味のある農作物を作り出します。そして、この農地というカツオブシは、よく保存が利きます。保存どころか、適切に管理され消費されれば減っていくこともありません。

また、里山もカツオブシです。里山とは、ナラやクヌギなどの雑木林で、子供たちの大好きなカブトムシやクワガタなどが生息する山林のことです。かつての日本ではあちことで見られたのですが、現在ではほとんど姿を決してしまった、日本的風景の一つです。この里山も、生の自然に人間が手を加えて人間の都合の良いように変質させたものですが、それでもこの里山は豊かな生態系を育む紛れもない自然そのものです。

もうひとつ。日本の首都である東京が、かつて江戸と呼ばれていた頃の東京湾。江戸前の海産物が豊富に獲れた東京湾も、これまたカツオブシでした。こちらのカツオブシは、江戸という都市そのものが東京湾という生の自然にとりついたカビとして機能したものでした。しかし、こちらも里山同様、今はカツオブシの見る影もない...。

「日本人の魂」などというものがあるとするなら、いまでのその多くの部分は日本人がカビとなって自然に作用して作り出した人工だが自然でもあるカツオブシに、その多くが占められているように思います。日本の農地の代表である水田、里山、それから恵み豊かな海辺。日本人であるなら郷愁を感じる風景は、みなみなカツオブシなのです。


対して、アメリカはと言いますと。

19世紀フランスの政治思想家にトクヴィルという人がいます。そのトクヴィルが、開拓時代のアメリカを訪れて「アメリカには農民はいない」といったようなことを述べているそうです。アメリカの農民の大半は、森を切り拓き、農地を作り出しても、それが高価に売れる条件が生まれると、さっさと売ってしまって別の仕事につくか、また新しい農地を切り拓いて売ることを考える。アメリカの農民は、農地を舞台にした経営者として自分を位置づける「精神の習慣」を持っているというわけです。

この開拓時代のアメリカ農民の「精神の習慣」は、おそらくは現代のアメリカの国民性にも引き継がれていると思われます。「アメリカ人の魂」なんてものがあるなら、その中のかなりの部分が現在でも開拓者精神、フロンティア・スピリッツによって占められているのではないでしょうか? そのフロンティア・スピリッツは表現方法を変えれば、「ムシ型」と表現できるでしょう。

(フランス人のトクヴィルは、アメリカ農民を農民でないと言ったとき、それはフランスの農民との比較において言ったに違いまりません。そうすると、フランス農民もまたカビ型だということになりますが、今日、アメリカと同様に農産品輸出国のフランスがいまだカビ型なのかどうかは疑問があるところです。しかし、それでもフランスにおいても「農の営み」はやはりカビ型であることは間違いないでしょう。その証拠にフランスにもカツオブシと同じくカビの力を使った作る、チーズのような自然食品があります。こうしたカビ型の食品は、やはりカビ型の文化でなければ生み出せなかったろうと考えます。そういえば、ムシ型のアメリカには、カビに限らず微生物の力を利用したアメリカ由来の発酵食品があるとは聞いたことがありません。)


ムシ型の「精神の習慣」は、アメリカ人たちのいう「ゲーム感覚」、つまり資本主義の精神と極めて親和性が高いように思われます。とむ丸さんが7/30の記事で、日本の農業経営をグローバルにしようと目論む竹中平蔵を批判されていますが、この人物など、アメリカ型のムシ精神の持ち主だといってよいでしょう。こうした人種は、鰹に植えつけられたカビが人間にとって有用なものとは理解でず、二束三文で他人に売り渡してしまうような「精神の習慣」の持ち主ですし、この人物が信奉するネオリベラリズム・グローバリズムという思想体系も、その基盤はムシ型の「精神の習慣」にあります。

人間社会を秩序付ける思想体系としての「カビ型」「ムシ型」を考えたとき、現在主流は明らかにムシ型だといってよいでしょう。左翼思想だってムシ型です。この事実をもってムシ型のほうがカビ型より優れていると解釈することもできるかも知れません。しかし、人間のあらゆる経済活動の基盤である自然に相対するときの思想体系としては、ムシ型がカビ型よりも優れているとは、とても言い切れない。現在人類が直面している環境問題という事実がムシ型の限界を示していますし、ムシ型の対応でこの問題を解決できる展望も開けていません。このままではいけないとわかっていながら、どうしたらよいかわからないのです。「精神の習慣」がムシ型になってしまっているために。

ムシ型ではだめだからカビ型でなければならない、などと結論付けるのは、まだ今の段階では早計というものでしょう。また、カビ型ムシ型で割り切れるほどに世界は単純なものでもないでしょうし。しかし、過去、人間が持続可能な社会を営んでいたときの社会のあり方は、カビ型の「精神の習慣」に基づくカツオブシのような社会であったことは事実です。私たち人間が有限な地球環境の中で生き残っていくためにはまた再び持続可能な社会に立ち戻らなければならないのですが、そのときに、過去のカツオブシ社会が参考にならないはずはありません。カビ型の「精神の習慣」とそうした習慣をもっていた人間たちが織り成した経済の形を再検討してみる必要があると考えます。

ムシ型がいくら人間にとって都合がよいからと言っても、そのあり方で生存できないのなら、未来に向けてその選択肢はありえないはずのです。

コメント

カビもムシもところかまわずでは…。

上手に適度にカビ(無意識)を生やさせ、熟成をもたらすものが、文化でしょうか。
その文化も、ムシ(個の意識)に食い荒らされ、追い込まれたカビは逆に無秩序に、目立たない日陰で、ところかまわず奇怪な繁殖をし続けている…。
それにいらだったムシが、ますますカビ駆除に乗り出す。結果として、良質なカビ=文化は根絶やしになっていく。
ちょっと、そんなイメージを受けました。

この「カビ型」「ムシ型」の概念は桐蔭横浜大学教授 コンプライアンス研究センター長 郷原信郎教授の作られた概念です。
企業のコンプライアンスシステム担当者向けとしての講演を聞いたことがありますが日米の比較文化論として納得するものでした。
ご参考
 http://www.medianetplan.com/0611/011-4.html

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