愚慫空論

間伐材の需要が増えてるって?

本日は久々に林業の話をば。

最近、しばしば「間伐材の需要が伸びている」なんて話を耳にする。いや、言葉は正確に使おう。「話」ではなく「報道」だ。「話」だと、私は林業関係者だから、関係者の中で「話」のように思われてしまうが、そんな「話」は聞かない(別の「話」は聞く。内容は後述)。聞くのは「報道」で、である。そして、そうした報道に接するたび、首を傾げたくなってしまう。こないだの土曜日も、朝、NHKニュースを見ているとそうした報道があった。その報道を見ながら首をかしげていたのである。

私が土曜日に見た報道は、ネットで検索してみたが見つからなかった。代わりに見つかったのがこれ。YOMIURI ONLINE のなかの1ページ。


木材自給率20%台回復 好調間伐材が主役

◆針葉樹の加工技術確立

 国内の木材総消費量に占める国産材の割合を示す2005年の木材自給率が、1998年以来7年ぶりに20%を回復した。大半が放置されたままだった間伐材を、住宅の床や壁に用いる合板として加工する技術が向上し、国産材の消費量を押し上げた。木材自給率は06年も20%台を維持する見通しで、間伐材を入り口にして国産材に復活の兆しが見えてきた。(向野晋)

 ■輸入材減少

 05年の国内の木材総消費量は、一戸建て住宅の減少などで前年比4・4%減の8586万立方メートル。輸入量が6・2%減る一方、国内生産量が3・8%増の1717万立方メートルで、自給率は1・6ポイント増の20・0%になった。自給率は99年に20%を割り込み、00年、02年には過去最低の18・2%まで下がったが、ここにきて持ち直した格好だ。

 輸入材が減少した背景には、国際的な需給関係の変化がある。中国で住宅用建材や土木用資材の消費が急増し、合板の主力輸入先であるインドネシアでは、違法伐採に対する規制が強まっている。

 国内では、輸入材不足を補うため、住宅メーカーなどを中心に国産材需要が増えた。合板用材の生産量が58・1%増、住宅の柱などになる製材用材が0・9%増、紙の原料のパルプ・チップ用材が4・2%増と軒並み伸びた。

 ■「かつらむき」

 合板用材の大幅な伸びは、間伐材の生産増でまかなわれた。幹が細い針葉樹の間伐材を合板に加工する独自技術が確立されたことが大きい。従来は太いマレーシアの南洋材(広葉樹)が主流だったが、資源保護のための伐採規制が強まり、国内の合板加工メーカーが針葉樹の利用を増やす必要に迫られた側面もある。

 林野庁によると、間伐材生産量は、1994年度の172万立方メートルに対し、2005年度は280万立方メートル程度と見積もっている。

 合板は、原木を「大根のかつらむき」のように機械で薄くむき、張り合わせて作る。合板加工で国内トップのセイホクは、2000年から間伐材利用と合板加工技術の改良を進めてきた。現在では、直径10~30センチの間伐材をむき、最後に3・3センチの芯を残すだけの技術水準に達した。同社グループ全体の間伐材の利用割合は、全原木の3割を占めているほどだ。

2006年11月29日の記事だから少し前のものだが、土曜日の報道も内容もこうした流れに沿ったものだったので、こちらのYOMIURIの記事で代用してもよかろう。この記事でひっかるのはこの部分。

林野庁によると、間伐材生産量は、1994年度の172万立方メートルに対し、2005年度は280万立方メートル程度と見積もっている。

この文章と、引用冒頭の「好調間伐材が主役」という言葉とを組み合わせると、いかにも間伐材の需要が増加しているような印象を受ける。土曜のNHKニュースもそうだった。木材チッブの需要増が間伐材の需要増につながっている――そんなふうに受け取ることができる内容だったように思う。


けれど、これは順序が逆、というのが実態ではあるまいか、と思う。需要が増えて供給が増えたのではなく、増えた供給に合わせて需要を増加させた――新技術を開発して。そこに国際的な木材価格の高騰という追い風はあるものの、間伐材に関しては、先に供給があって、需要はその後というのが実態だ。というのも、間伐材の伐採・搬出施行はいまだ採算が取れる事業ではないからである。林野庁のいう間伐材生産量見積もりは、経済法則に則った需要に対する供給見込みではなく、需要など無関係な供給見込み――林野庁やその他関係官庁が、補助金等支給の計画から割り出した供給量なのであろうと思う。

当エントリー冒頭で、後述するとした「話」があると書いたが、ここでその内容を紹介すると、私が関係者から耳にする話とは、「ノルマ」の話――これだけの予算があるからどれだけの施行をしなければならない――なのである。

(現在、木材の市況は下落傾向。これは建築基準法改正で、住宅着工件数が減少しているから。だからチップの需要が増加している→間伐材需要増という話になるのだろうが...。チッブの原材料のパルプ材の値は多少上がっているけど、それでも市況には影響なし。このことからも、間伐材供給が需要とはあまり関係ないことがわかる。)


ここで思い起こされるのが、とむ丸さん5月15日の記事。『地方分権の正体 増税・徴税モンスター』というタイトルで、槍玉に挙がっているのが森林環境税。昨今の環境意識の高まりからすれば、森林環境を整備しなければならないという意見を否定するのは難しいし、そのために多少費用がかかるのはやむを得ないし、そうすると、そのための資金を新たに税金として徴収するのもやむを得ない、徴収するにしてもわずかの額でしかない――といった感じで、市民としても納得せざるを得ないといったところなのだろう。行政も、そうした風潮を見越しているのだろう。


が、しかし。森林環境税にも問題がないわけではない。

まず、こうした税は、どうしても役所の権限を強化させてしまうものであること。仕組みは多少違うし、また財政規模は全く違うけれども、こうした仕組みは道路特別財源と同様のものだ。役所が権限を握り、一部の人間が利益を得る。こうした部分は同じである。道路も森林も、その公益性の高さが大義名分とされる。

異なるのは、道路財源がもう何十年も役割を果たしていまやその意義が薄れた制度であるのに対して、森林環境税の方は、森林整備がこれからの課題であるということ。だから道路財源は暫定税率を廃止して縮小の方向へ持っていくべきだが、森林環境税は内容をより充実させるべき――これは正論であろう。

だが、森林整備は道路とは異なった部分があることに留意すべきだろう。それは道路は社会資本であり社会の共有物なのだが、税金を投入して整備される森林は、その多くが私有地、すなわち私有財産であるという点だ。

このことは、とむ丸さんの記事でも指摘されている。

森林の荒廃を放置しておけば大規模な災害につながる恐れがあるとしても、荒廃した民有林すべてを対象に税金を投入して再生させることが適当かどうか疑義も残る。


ここで土曜日のNHKニュースでの報道内容に触れたい。とはいっても報道内容は私の記憶に基づくものだから、不正確なところはあろうかと思うが。

そのニュースでは、間伐材生産を伴う森林整備の実例が紹介されていた。それは、現場での生産の様子ではなく、山林所有者と間伐を施行する業者との契約の例。私の記憶によると、確か2haあまりの山林を間伐し、材を搬出して販売するという施行を行うのに、その経費が175万、売り上げが200万で、その差額25万は山林所有者の所得になる、と紹介されていた。

これだけの報道内容からすると、上の契約と施行は経済法則に則ったものだと誰もが推測するだろう。ビジネス一般の常識に照らすと、そうなるはずだ。けれど、本当にそうなのか? 林業の世界に住まう者からすると、どうしても疑念を持つことになってしまう。というのも、林業の世界では、間伐等の造林施行には補助金がつくのが常識だからだ。

造林施行に対して行われる補助金の額はその施行の内容によってまちまちで、また都道府県ごとにも異なっている。しかし、同一の施行に対しては、自治体が違ってもほぼ同額と見てよい。で、人工林を間伐して間伐材を搬出するという施行に対して支払われる補助金の額だが、だいたい1ヘクタール当たり25万円というのが標準だろう。

上のケースは、単に売り上げ200万となっている。これを素直に解釈するとそこには補助金は含まれていない。だが、本当にそこには補助金は含まれていないのだろうか? いや、補助金は売り上げではなく、経費の方へ計上されているのかもしれない。昔少し齧った簿記の知識によると、確か補助金は圧縮記帳だったはず。となると、実は経費は175万ではなく225万(175+25×2)である可能性がある。もし、そうならそのことが報道で触れられないことには問題があると感じる。もちろん、そうでない可能性もあるが。

ニュースで紹介されたケースが補助金を使っていないケースであったとしても、それは林業の常識からすると、常識はずれなケースである。そうした常識はずれなケースを、あたかも一般例のように報道するのも、これまた問題だ。私は、ニュースを見ながらどこで補助金のことが出てくるかと待ち構えていたが、ついにその話がでることはなかった。記事を引用したYOMIURIでも、補助金の語句は一言も出ていない。


どのような事業にも費用はかかる。森林整備も同様だ。森林整備の場合、その費用の多くは人件費が占める。この割合は他の事業よりもずっと高いだろう。森林整備は、いまだその多くが人力に頼らざるを得ないのである。だから、森林整備に公金が投入されることは、それはそのまま雇用の確保につながる、という面もある。公金が投入されて森林の整備が進んむと、環境がよくなりさらに多くの雇用が確保される――森林整備はよいことずくめのように思われるかもしれない。

だが、整備された森林が私有地の場合、それは私有財産の資産価値を高めるために公金が支出されたことにもなる。間伐された人工林は、間伐されない林よりも資産価値が高い。しかも、公金が支出されて価値が高まったにも関わらず、所有者の所有権は揺るがない。補助金を受けて整備さえた場合、確か5年間は伐採することが禁止されるが、林業でいう5年など、ほんの僅かな期間でしかない。事実上、なんの規制もないといってよい。

昨今、日本の食糧自給率を上げるために農家への所得補助を行おうという議論があり、こうした方向性に私も賛成するものだが、これはあくまで所得であって、山林の場合のような資産ではない。生活に困窮している人の生活保護に公金が使われるのは当然だが、生活に困っていない人の資産価値向上に公金が使われるのは、問題があるだろう。たとえその資産に公益性があるにしても。公益性を理由に公金を投入するのであれば、公益性ゆえに私権を制限することも考えなければ、バランスが取れないのではないだろうか?

人工林に対する公金の支出はモラル・ハザードといえるものだが、これが問題にならないのは、ひとえに人工林の資産価値が低いから、である。人工林を整備して資産価値をあげても、整備のために投入した資金が回収できるほど資産価値はあがらない。だから人工林が荒廃していったのだし、補助金を投入する意義もあるのだけれど、資産価値がいつまでも低いままかというと、そうとも言い切れないのである。

現在、木材等の森林資源は世界的に見て減少傾向にある。アマゾン等の熱帯雨林や、ロシアのタイガと呼ばれる針葉樹林帯が違法伐採も含めて、凄まじい勢いで減少しているのは報道されている通りだ。そうした中で、日本は数少ない森林資源増加国なのである。増加といっても人工林は荒廃するに任せているのでその内実はお寒いものだが、それでも絶対数量が増加していることには間違いない。お隣の中国が経済成長で資源の大消費国になりつつあるが、その資源の中には当然に森林資源も含まれる。そうした大きな流れでいうと、いつまでも日本の山林の資産価値が低いとは言い切れない。さらに、そこにCO2の森林吸収という話が絡んでくる...。


実は、私が聞く「話」のなかには別の「話」もある。最近、日本の大手企業や外資が日本の山林の大規模な買収に動きつつある、というような「話」である。これは私の耳にはまだ噂話といった程度にしか聞こえてこないが、つい最近までは、そんな話は影も形もなかった。山を買う奴は、道楽者かバカのどちらかだ、というのが定説だったのだから。が、時代の流れを考えれば、あっても不思議ではないだろう。

そうした「話」と補助金が出ない間伐材需要増の報道、それに森林環境税...。想像力を逞しくすると、なにやら陰謀論めいたストーリーが出来上がりそうである。

コメント

材木

お邪魔します。私もニュースを見ました。さすが愚樵様ですね。私のつれあいは、1980年~1995年まで製材業に従事してました。岩手県の山で樵の真似事もしたりしてましたが、殆どは、輸入材を製材していたようです。東北の会社だと思いますが、アイリスという企業が、3年ほど前中国と合弁会社(合板加工会社)を設立したというニュースが地方紙に載りました。よくわかりませんが、第一次産業は、大手企業に翻弄されてしまうのでしょうか?

外資の狙い

このまま行くと外資の山林買収は間違いなく横行します。

動機は「水」です。水源林を支配して、世界的な淡水不足に際して高額の投資物件にしようとしているのです。

ミネラルウォーターの汲みすぎ、米豪など大規模農業における地下水の乱用、中国の環境悪化など、水不足を招く要因には事欠きません。

自民党が打ち出しているミンエーカの対象の中に、水道局が入っているのはご存じでしょうか。すでにボリビアなどで、水道運営をミンエーカし、米ベクテルが買収したという「実績」もあります。

営林署をミンエーカしろと言い始めたらもうヤバいです。初めは水源林を対象にしなくても、いずれそうなります。

農水省の利権叩きは、そういう米英の金融資本の狙いに利用されている可能性があります。本当の敵は誰か、よく考えてみてほしいものです。

農婦さん、こんにちは。

>私のつれあいは、1980年~1995年まで製材業に従事してました。
>岩手県の山で樵の真似事もしたりしてました

そうですか。田舎では、そうしたことはごく普通のことですからね。

>第一次産業は、大手企業に翻弄されてしまうのでしょうか?

このままではそうなってしまうでしょうね。なにもかもが「おカネ」に蝕まれてしまいます。

*****

ろろさん

>農水省の利権叩きは、そういう米英の金融資本の狙いに利用されている可能性があります。

役所の利権構造は甚だ不愉快です。また役人どもに富が吸い上げられ浪費されて、日本という国家の足腰が衰弱しているのも事実でしょう。でも、だからとって、国家ごと外資に売り渡してしまうなんてのは論外です。

農地はもちろんですが、私は山林も法人による所有は禁止すべきではないかと思っています。商業地等は除くにしても、基本的に日本の土地を所有できるのは日本人に限る、とするべきでしょう。

人間は土地なくしては生存できません。貨幣経済の発達で、カネさえあれば生き残れると大方の人は考えているようですが、そんなのは錯覚でしかない。貨幣経済なんていつ崩壊してもおかしくないですからね。

すっかりコメントが送れてしまいました。ごめんなさい。
そしてご紹介ありがとうございました。

山の荒廃は、私の周辺では荒れた竹林の浸蝕の形で表れていたりします。人の手が入っていない竹林が新旧の竹の更新がないままうち捨てられて、どんどん広がっていってるわけです。実際によく手入れされている竹林を見るとほんとうに美しく、ほっとします。
また、もっと地方に行くと、台風被害による倒木が何年も放置されていたりします。

ボランティア養成講座が開かれ、そこから巣立った人たちが竹林整備や荒れ地への植林に駆り出されていますが、絶対的な人手不足です。

第一次産業軽視、過疎化、高齢化等々、実態を知れば知るほど、戦後の産業政策の誤りがどうしようもないところまで来てしまった、と思うのではないでしょうか。

>森林整備は、いまだその多くが人力に頼らざるを得ない、と愚樵さんが云われていますが、地方に、そして農山村に人材を呼び込む施策が本気で考えられて然るべきではないかと思っています。

よく人のにぎわう町づくりが話題になりますが、村づくり、山づくりについても、もっと知恵を絞るべきではないでしょうか。

もともと山林には入会地のように村人が共同して利用・管理してきた所も多いのでしょうし、水源涵養林の面などから考えると公共性の強いものですよね。

民有林の問題も、日本の農村が一変した戦後の農地改革ほどの思いきった政策が必要なのかな? と考えたりします。川や海には民有はないですよね、それみたいに。民営化の方向とは逆方向ですね。

イギリスのナショナル・トラスト運動のようなものもあり得るな、とも思います。

それにしても私たちは、山とか林業とかの実際を知らなさすぎますね。

う~ん、まずは知ることから始めないといけないかな。

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