愚慫空論

『銃・病原菌・鉄』その3~アンナ・カレーニナの原則

『その2』はこちら (^o^)っ リンク




家畜化できている動物はどれも似たものだが、家畜化できていない動物はいずれもそれぞれに家畜化できないものである。

この文章をどこかで目にしたような気がしても、それは錯覚ではない。文豪トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の有名な書き出しの部分、「幸福な家庭はどれも似たようなものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」をちょっと変えたものだからだ。(中略)

トルストイの指摘はひとつの原則であり、男と女の結婚生活以外にも、いろいろな事柄にあてはまる。われわれは、成功や失敗の原因をひとつにしぼる単純明快な説明を好む傾向にあるが、物事はたいていの場合、失敗の原因となりうるいくつもの要素を回避できてはじめて成功する。



この「アンナ・カレーニナの原則」は『銃・病原菌・鉄』という著書の貫く原則でもあると思います。

「原則」というより「視点」というべきか。



 1.成功の要因を満たさないとしないと成功しない
 2.失敗の原因を回避しないと成功しない


1.と2.は同じ「結論」を言っているけれども、出発点が違う。
同じことを眺めているけれども、「始点(視点)」が違うわけです。

ちなみにですが、ぼくの視点は1.でも2.でもありません。

 3.失敗の原因がなければ成功する

2.と同じ「始点」から出発しているけれども、「結論」が違う。
つまり、1.とも2.とも「視点」が違う。

1.と2.の視点では、成功はデフォルトではありません。
3.の視点では、成功はデフォルトです。
デフォルトが阻害されている、という視点で〈世界〉を眺める。


1.の視点は、キリスト教的と言っていいのかもしれません。
救済には条件がある。
条件を満たした者だけが、神に得らればれて救済される。

2.の視点は、原始仏教とその流れをくむ上座部仏教。
阻害する原因を回避していけば、涅槃に至る。
回避のための修行。

3.の視点は、日本的仏教のそれです。

 山川草木悉皆成仏

これは、もともとは「一切衆生悉有仏性」でした。
人間には可能性がある。
1.が、もしくは2.の可能性。

3.は「可能性」ではなく、「基準」と観る。
うつろいゆく〈世界〉はつねに完成形であると観る。


余分な回り道をしてしまいました。

『銃・病原菌・鉄』では、旧大陸が新大陸を征服することができた原因がシンプルに提示され、かつ丁寧に説明されています。
“丁寧”のところは、直接本書を読んでもらうとして、“シンプル”な部分を抜き出しておきます。

直接の原因 : 
  「馬」
  「銃、鉄剣」 
  「外洋船」
  「政治機構、文字」
  「疫病」

直接の原因を生む原因の第一層 :
  「技術の発達」 → 「銃、鉄剣」
          → 「外洋船」

第二層 : 
  「定住社会、稠密な人口、大規模階層社会」 → 「技術の発達」
                       → 「政治機構、文字」
                       → 「疫病」

第三層 :
  「余剰食糧、食物貯蔵」  →  「定住大規模階層社会」

第四層 :
  「栽培植物と家畜の存在」  →  「余剰食糧、食物貯蔵」
                 →  「疫病」

第五層 : 
  「家畜化可能な野生種の存在」  →  「栽培植物と家畜の存在」 
                   →  「馬」
  「種の分散の容易性」 →  「栽培植物と家畜の存在」 

第六層(究極の原因) 
  「東西方向に延びる大陸」  →   「種の分散の容易性」


『銃・病原菌・鉄』の125ページ(ハードカバー版)には、わかりやすい図が掲載されています。
コチラに、その図の修正版(?)が掲載されています。


『その2』で記しましたが、ジャレド・ダイアモンドさんが提示した原因では旧大陸が新大陸を征服した理由は説明できても、それがヨーロッパだった原因は説明できないというのがぼくの見解です。
そこを説明するには、第六層に

  「太平洋よりも幅が狭い大西洋」

を原因として追加する必要がある。


原因追加の必要性そのものは1.の視点です。
が、その必要性を見出すのは3.の視点。
いえ、1.2.3.の「視点」を相対化する視点です。


なお、『銃・病原菌・鉄』において、掲げられたシンプルな原因と丁寧な説明の記述姿勢は、どちらかといえば、1.のものです。
「アンナ・カレーニナの原則」は第9章で登場しますが、そこは転換点。
1.の視点から2.の視点へと移っていく。
「失敗をなぜ回避できなかったか」、という視点になります。


「その4」へと続くと思います。たぶん(^_^;)

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